フランスで調香師は「憧れの特権職」なのか?世襲の一族と現代のエリート養成校 ISIPCA
フランスで調香師は「ネ(鼻)」と呼ばれ、特別な才能の持ち主として尊敬されています。そして昔から「調香師は香水の家に生まれた人の仕事」とも言われてきました。それは本当なのでしょうか。調香師の一族の歴史と、学校で学んで調香師になる今のルートを見ていきます。
2026.10.23 · 5分で読めます

受け継がれてきた調香師の一族
ゲラン家:5代つづいた香水の家
一族最後の調香師ジャン=ポール・ゲランは2002年に引退しました。会社は1994年に LVMH グループに売却されており、2008年5月には、スイス出身のティエリー・ワッサーが、一族以外で初めてのゲラン専属調香師になりました。
ゲラン家の調香の歩み
ポルジュ家とエレナ家
シャネルでは、1978年から2015年まで専属調香師を務めたジャック・ポルジュの後を、息子のオリヴィエ・ポルジュが継ぎました。オリヴィエは2013年にシャネルに入り、2015年のはじめから調香師のトップを務めています。
グラース生まれのジャン=クロード・エレナは、子どものころ祖母とジャスミンを摘んで香料会社に売っていたといいます。父も弟も、そして娘のセリーヌも調香師です。エッセンシャル パルファンでナイス ベルガモットをつくったアントワーヌ・メゾンデューも、グラースの香水一家の生まれです。
学校で調香師になる時代へ:ジボダンの学校と ISIPCA
一族の中で教わる仕事だった調香師に、別の道が開かれたのは20世紀の半ばです。1946年、香料会社ジボダンが社内に調香師の学校を開きました。Wikipedia 英語版によれば、世界の創作系の調香師の3分の1がこの学校の出身とされています。
1970年には、ゲラン家のジャン=ジャック・ゲランが、フランス・ヴェルサイユに ISIPCA(イジプカ。香水・化粧品・食品香料を学ぶ専門の大学院レベルの学校)を設立しました。調香を学ぶ最初の学校とも言われ、のちにはヴェルサイユの商工会議所が支える学校になりました。2002年にはグラースにも、グラース香水学院(Grasse Institute of Perfumery)ができています。
今の調香師を目指す人には、大学レベルの有機化学(炭素をふくむ物質の性質や反応を学ぶ化学の分野)の知識が求められます。昔ながらの徒弟制度で学ぶ場合も、およそ3年かかるとされます。香料会社の学校には、ジボダンのほか IFF やシムライズのものもあります。
名家の出身ではない名調香師たち
学校のルートができたことで、香水の家に生まれていなくても調香師になれるようになりました。フランシス・クルジャンは ISIPCA を1993年に卒業し、2年後にル マルをつくりました。クエンティン・ビッシュはストラスブール生まれで、ジボダンの調香学校の出身です。
クリスティーヌ・ナジェルはジュネーブ大学で化学を学んでから香料会社に入りました。彼女は、当時の業界はグラースの調香師一家の男性を採るのが普通で、自分の入り方は珍しかったと語っています。ドミニク・ロピオンは、グラースにあった香料会社ルールの調香学校(現在はジボダンの一部)で学びました。
調香師になった道
今の答え:名家でなくてもなれるが、狭き門であることは変わらない
「名家でないと調香師になれない」は、今は正しくありません。化学を学び、学校や香料会社の研修を経て調香師になる道がはっきりあります。ただし、香料会社に入っても、すぐ高級香水を任されるわけではありません。見習いとして香料を量って混ぜる仕事から始め、ジュニア、シニアと経験を積んでいくのが一般的です。
一方で、香りに囲まれて育った家の子どもが有利なのも事実でしょう(推測)。エレナ家やポルジュ家のように、今も一族の中で調香師が続く家があるのは、その表れかもしれません。
香水のボトルに調香師の名前が書かれるようになったのは、2000年にフレデリック・マルが自分のブランドで始めてからのことです。それまで裏方だった調香師は、今では作品で名前を知られる「作り手」になりました。調香師ごとの作風は天才調香師10人で紹介しています。
まとめ
- ゲラン家は1828年から5代にわたって調香を受け継ぎ、2008年に初めて一族以外の調香師が就いた
- シャネルではジャック・ポルジュから息子オリヴィエへ、調香師の座が受け継がれた
- 1946年にジボダンの調香学校、1970年に ISIPCA ができ、学校で学ぶ道が開かれた
- 今は化学を学べば名家でなくても調香師になれるが、見習いから長い経験が必要
この記事に出てくる
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出典(16)
- Wikipedia(英語版)「Guerlain」
- Wikipedia(英語版)「Jicky」
- Wikipedia(英語版)「Shalimar (perfume)」
- Wikipedia(英語版)「Jacques Polge」
- Wikipedia(英語版)「Olivier Polge」
- Wikipedia(英語版)「Jean-Claude Ellena」
- Essential Parfums 公式「Antoine Maisondieu(調香師ページ)」
- Wikipedia(英語版)「Givaudan」
- Wikipedia(英語版)「ISIPCA」
- Wikipedia(英語版)「Perfumer」
- Wikipedia(英語版)「Francis Kurkdjian」
- Luckyscent「Quentin Bisch(調香師紹介)」
- Wikipedia(英語版)「Christine Nagel」
- Wikipedia(英語版)「Dominique Ropion」
- Now Smell This「Nathalie Lorson(調香師の作品一覧)」
- ONISEP(フランス国立教育・職業情報局)「Parfumeur / Parfumeuse(職業ガイド)」






