「香水のアカデミー賞」歴代受賞作と調香師たち:フレグランス・ファウンデーション・アワード(旧FiFi賞)年別ガイド
映画にアカデミー賞があるように、香水の世界にも「その年いちばんの香り」を選ぶ授賞式があります。ニューヨークのフレグランス・ファウンデーションが開く、通称 FiFi 賞です。トム フォードの「ロスト チェリー」も、ディオールの「ソヴァージュ」も、ここでトロフィーを受け取りました。この記事では、公式に残る受賞記録だけを使って、賞のしくみと年ごとの受賞作、その裏にいる調香師(香りの処方を組み立てる専門家)を紹介します。
2026.10.24 · 10分で読めます

フレグランス・ファウンデーション・アワードとは?1973年に始まった「香水のアカデミー賞」
主催するのは、1949年にニューヨークで生まれた業界団体フレグランス・ファウンデーションです。英国の公式サイトによると、シャネル、コティ、エリザベス アーデン、ゲラン、ヘレナ ルビンスタインといった香水・化粧品の会社が集まってつくりました。
賞が始まったのは1973年。公式の年表には「第1回 米国フレグランス・ファウンデーション・アワード」と記されています。2023年に50回目の節目を迎え、いまも毎年、受賞作が発表されています。公式の FAQ では今も「The Fragrance Foundation Awards(FiFi's)」と書かれていて、FiFi(フィフィ)という愛称がそのまま通じます。
英国にも同じ名前の団体があり、独自に賞を出しています。英国の公式サイトは自分たちの賞を「香水業界のアカデミー賞」と紹介しています。フランスにも FiFi 賞があり、2026年に「FFFAR(Fragrance Foundation France Annual Revelations:フレグランス・ファウンデーション・フランスの年間の発見)」という名前に変わりました。
FiFi 賞の歩み
「商品の賞」と「調香師の賞」:パフューム・エクストラオーディネール部門だけがちがう理由
FiFi 賞の部門は大きく2種類に分かれます。ひとつはフレグランス・オブ・ザ・イヤー(その年に発売された香水の中から選ぶ部門)です。「ラグジュアリー(高級ブランドの香水)」「プレステージ(百貨店などで広く売られる香水)」「インディー(大手に属さない小さなブランドの香水)」など、売り場や価格帯ごとに分かれ、女性向け・男性向け・ユニバーサル(性別を問わない香水)にも分かれます。ここで選ばれるのは、ボトルや名前も含めた「商品としての香水」です。
もうひとつがパフューム・エクストラオーディネール・オブ・ザ・イヤー(その年もっとも独創的で美しい香りそのものをたたえる部門)です。英国版では、ブランドではなく香料会社(ジボダン、IFF、シムライズ、ロベルテのように香りを開発してブランドに納める会社)が、名前を伏せたサンプルを提出する方式だと、2014年に香水ブロガーのペルソレーズが書いています。2019年に審査に加わった英国パフューム・ソサエティも「この部門は完全にブラインド(ブランドもボトルも見ずに、香りだけで判断すること)で審査した」と書いています。
米国版の公式記録でも、この部門の受賞者として IFF(2015年)、シムライズ(2017年・2019年)、ロベルテ(2018年)と香料会社の名前が並びます。つまりこの部門は、売れ行きや広告ではなく、処方(どの香料をどれだけ混ぜるかの設計図)の出来ばえで調香師が評価される場所なのです。
3つの部門の見分け方
- フレグランス・オブ・ザ・イヤー:売り場や価格帯ごとに、その年の新作の「商品」を選ぶ
- パフューム・エクストラオーディネール:香料会社が出した、名前を伏せた香りそのものを選ぶ(英国版は完全ブラインド審査)
- 殿堂入り:何十年も愛され、時代を代表した名香をたたえる
米国版:2015〜2026年の年別受賞作と調香師
ここからは、米国フレグランス・ファウンデーションの公式アーカイブに載っている受賞作を年ごとに並べます。カッコ内は公式記録に書かれている調香師です。
米国版の主な受賞作(ラグジュアリー部門=高級ブランドの香水、パフューム・エクストラオーディネール=香りそのものをたたえる部門)
| 年 | 女性向けラグジュアリー | 男性向けラグジュアリー | パフューム・エクストラオーディネール |
|---|---|---|---|
| 2015 | トム フォード「ヴェルベット オーキッド」 | トム フォード「マンダリーノ ディ アマルフィ」 | IFF「パフューム カリグラフィー サフラン」(クレメント・ガヴァリー) |
| 2016 | トム フォード「ノワール プール ファム」 | トム フォード「ヴェネチアン ベルガモット」 | シャネル「ミシア」(オリヴィエ・ポルジュ) |
| 2017 | トム フォード「ソレイユ ブラン」 | トム フォード「ヴェール デンサン」 | シムライズ/パルファム クアルタナ「ポピー ソーマ」 |
| 2018 | トム フォード「ファビュラス」(シャマラ・メゾンデュー) | トム フォード「ウード ミネラル」 | ロベルテ/アトリエ コロン「カフェ チュベローザ」 |
| 2019 | トム フォード「ロスト チェリー」(ルイーズ・ターナー) | シャネル「ブルー ドゥ シャネル パルファム」(オリヴィエ・ポルジュ) | シムライズ/ア ラボ オン ファイア「ハルシノジェニック パール」 |
| 2020 | イヴ・サンローラン「リブレ オーデパルファム」(アンヌ・フリポ、カルロス・ベナイム) | ディオール「ソヴァージュ パルファム」 | ズーロジスト「スクイッド」(セリーヌ・バレル/IFF) |
| 2021 | グッチ「ア チャント フォー ザ ニンフ」 | ゼニア「ローマン ウッド」 | セント オブ ウッド「プラム イン コニャック」 |
| 2022 | トム フォード「ソレイユ ブリュラン」 | ディオール「ソヴァージュ エリクシール」 | トム フォード「エベーヌ フュメ」(ロドリゴ・フローレス=ルー) |
| 2023 | シャネル「ガブリエル シャネル パルファム」 | トム フォード「ノワール エクストリーム パルファム」 | BDK パルファム「グリ シャルネル」(マチルド・ビジャウイ) |
| 2024 | ヴァレンティノ「ボーン イン ローマ ドンナ インテンス」 | ジョルジオ アルマーニ「アクア ディ ジオ パルファム」 | ゲラン「タバコ ハニー」(デルフィーヌ・ジェルク) |
| 2025 | キリアン「サンキスト ゴッデス」 | トム フォード「ボワ パシフィック」 | バルマン「エベーヌ」(モーリス・ルーセル) |
| 2026 | ヴァレンティノ「ドンナ エクストラドーズ」 | イヴ・サンローラン「MYSLF アブソリュ」 | イヴ・サンローラン「ミューズ」(マリー・サラマーニュ) |
表の受賞作(このサイトのページ)
Tom FordVelvet Orchid¥26,200(海外公式価格を円換算)
Tom FordMandarino di Amalfi¥47,600(海外公式価格を円換算)
CHANELMISIA Les Exclusifs de CHANEL Eau de Parfumミシア¥40,810
Tom FordSoleil Blanc¥11,900(海外公式価格を円換算)
Tom FordFucking Fabulous¥86,400(海外公式価格を円換算)
Tom FordOud Minérale¥8,700(海外公式価格を円換算)
Tom FordLost Cherry¥14,300(海外公式価格を円換算)
CHANELBLEU DE CHANEL Parfum¥20,680
Yves Saint LaurentLibre Eau de Parfum¥5,390
DiorSauvage Parfum¥15,730
ZoologistニッチSquid¥40,700
DiorSauvage Elixir¥31,600(海外公式価格を円換算)
Tom FordÉbène Fumé¥11,900(海外公式価格を円換算)
CHANELGABRIELLE CHANEL Parfum¥58,520
Tom FordNoir Extreme¥32,500(海外公式価格を円換算)
BDK ParfumsニッチGris Charnel¥8,500(海外公式価格を円換算)
ValentinoDonna Born in Roma Intense¥23,800(海外公式価格を円換算)
Giorgio ArmaniAcqua di Giò Parfum¥15,700(海外公式価格を円換算)
Kilian ParisニッチSunkissed Goddess¥48,200(海外公式価格を円換算)
Tom FordBois Pacifique¥26,200(海外公式価格を円換算)
ValentinoBorn in Roma Donna Extradose¥26,400(海外公式価格を円換算)
Yves Saint LaurentMYSLF L'Absolu¥21,400(海外公式価格を円換算)
トム フォードが「常連」になった10年
表を見ると、2015〜2018年の女性向け・男性向けラグジュアリー部門は、8枠すべてがトム フォードです。2019年の「ロスト チェリー」、2022年の「ソレイユ ブリュラン」、2025年の「ボワ パシフィック」まで続きます。さらに「ブラック オーキッド」は、2021年にパルファム版(香料の濃度がいちばん高いタイプ)がユニバーサル・プレステージ部門(性別を問わない、広く売られる香水の部門)で受賞し、2022年には殿堂入りしました。公式記録には、殿堂入りの調香師としてピエール・ネグリンとデイヴ・アペルの名前が載っています。
トム フォードの受賞作
ソヴァージュ、ブルー ドゥ シャネル、リブレ:大ヒット作も審査を通っている
百貨店でよく見る大ヒット作も、きちんと受賞しています。ディオール「ソヴァージュ」は、2016年にオードトワレ(香料の濃度が軽めのタイプ)が男性向けプレステージ部門、2019年にオードパルファム(オードトワレより濃く、長く香るタイプ)が同じ部門、2020年にパルファムが男性向けラグジュアリー部門で受賞しました。濃度を変えた版ごとに3回受賞しているのです。
イヴ・サンローラン「リブレ」のオードパルファムは2020年の女性向けラグジュアリー部門で受賞し、調香はアンヌ・フリポとカルロス・ベナイムです。シャネル「ブルー ドゥ シャネル」のパルファムは、2019年の男性向けラグジュアリー部門で受賞しました。調香はシャネルの専属調香師オリヴィエ・ポルジュです。
ラグジュアリー部門・プレステージ部門の受賞作
パフューム・エクストラオーディネールは「調香師の名前」で見る
この部門の受賞作は、ニッチ香水(大量生産より個性を優先した、小さめのブランドの香水)が多いのが特徴です。2020年はカナダのズーロジスト「スクイッド(イカ)」。2022年はトム フォード「エベーヌ フュメ」で、調香師はメキシコ出身のロドリゴ・フローレス=ルー。2025年はバルマン「エベーヌ」で、ムスク(肌のぬくもりのような甘い香り)の名作を多く手がけてきたモーリス・ルーセルです。
英国版:ブラインド審査のパフューム・エクストラオーディネール(2015〜2025年)
英国版のパフューム・エクストラオーディネール部門は、先に書いたとおり香りだけで選ばれる部門です。受賞作を並べると、大手の看板商品よりも、香水好きのあいだで評判のブランドが目立ちます。
英国版パフューム・エクストラオーディネール部門(香りだけで選ぶ部門)の受賞作
| 年 | 受賞作 |
|---|---|
| 2015 | キリアン「ライト マイ ファイア」 |
| 2016 | アルマーニ プリヴェ「サーブル ドール」 |
| 2017 | ロジャ パルファム「ブリタニア」 |
| 2018 | ペンハリガン「ロアリング ラドクリフ」 |
| 2019 | ディプティック「フルール ドゥ ポー」 |
| 2020 | マルク=アントワーヌ・バロワ「ガニメデ」 |
| 2021 | マティエール プルミエール「ラディカル ローズ」 |
| 2022 | フレデリック マル「シンセティック ジャングル」 |
| 2023 | ルース マステンブロク「ゼファー」 |
| 2024 | エラ K「カメリア K」 |
| 2025 | マルク=アントワーヌ・バロワ「ティリア」(カンタン・ビッシュ) |
2019年のディプティック「フルール ドゥ ポー」は、同じ年に女性向けの最優秀新作部門もあわせて受賞しました。調香はオリヴィエ・ペシューです。
パリのブランド、マルク=アントワーヌ・バロワは、2020年の「ガニメデ」と2025年の「ティリア」で2度受賞しています。2025年の記録には調香師カンタン・ビッシュの名前があります。ガニメデはフランスのフレグランス・ファウンデーションでも2020年に審査員賞を受けたと、業界誌プレミアム・ビューティー・ニュースが伝えています。
英国版では、ほかにトム フォード「ファッキン ファビュラス」が2018年に限定流通(取り扱い店舗を絞った香水)の女性向け部門で、シャネル「ココ マドモアゼル」が2022年に「この30年で最高の新作香水」という特別な部門で受賞しています。
殿堂入り:時代をつくった名香たち
殿堂入りは、発売から長い年月がたっても愛され続けている香水に贈られます。米国版の公式記録から、主な殿堂入りを年順に並べます。
米国版・殿堂入りの主な香水
1987
シャネル「N°5」
1988
ニナ リッチ「レール デュ タン」
1989
ゲラン「シャリマー」
1990
ジャン パトゥ「ジョイ」
1996
シャネル「ココ」、ギ・ラロッシュ「ドラッカー ノワール」
2000
ディオール「プワゾン」
2007
ティエリー ミュグレー「エンジェル」
2010
カルバン クライン「シーケーワン」
2011
2015
ディオール「ジャドール」
2020
フレデリック マル「ムスク ラバジュール」(モーリス・ルーセル)
2022
トム フォード「ブラック オーキッド」
2023
ヴィクター&ロルフ「フラワーボム」
2024
マーク ジェイコブス「デイジー」
2025
ラバンヌ「1ミリオン」
2026
フレデリック マル「ポートレイト オブ ア レディ」(ドミニク・ロピオン)
殿堂入りの名香
CHANELN°5 Eau de Parfumシャネル N°5 オードゥ パルファム¥20,570
Nina RicciL'Air du Temps Eau de Toilette¥13,500(海外公式価格を円換算)
GuerlainShalimar Eau de Parfum¥22,200(海外公式価格を円換算)
CHANELCOCO Eau de Parfum¥20,020
DiorPoison¥22,440
MuglerAngel Eau de Parfum¥12,000(海外公式価格を円換算)
Calvin KleinOne¥17,500(海外公式価格を円換算)
Issey MiyakeL'Eau d'Issey Eau de Toiletteロードゥ イッセイ オードトワレ¥14,960
Jean Paul GaultierLe Male¥20,900(海外公式価格を円換算)
DiorJ'adore¥12,430
Frédéric MalleニッチMusc Ravageur¥57,000(海外公式価格を円換算)
Tom FordBlack Orchid¥22,200(海外公式価格を円換算)
Viktor&RolfFlowerbomb¥8,000(海外公式価格を円換算)
Marc JacobsDaisy¥16,900(海外公式価格を円換算)
Rabanne1 Million Eau de Toilette¥20,000(海外公式価格を円換算)
Frédéric MalleニッチPortrait of a Lady¥33,800(海外公式価格を円換算)
並べてみると、殿堂入りは「その時代の空気を変えた香り」の一覧になっています。1992年発売の「エンジェル」はグルマン(お菓子のように甘い、食べもの系の香り)という系統をつくり、同じ1992年の「ロードゥ イッセイ」は水のように透明な香りを流行させ、1994年の「シーケーワン」は男女が同じ香りを使うユニセックス(性別を問わない)香水の代表になりました。
フレデリック マルは2020年の「ムスク ラバジュール」、2026年の「ポートレイト オブ ア レディ」と、2本が殿堂入りしています。どちらもブランドが調香師の名前を表に出して売っている香水で、調香師の仕事が正面から評価された例といえます。
受賞作の楽しみ方:「部門」と「調香師」で選ぶ
受賞作で失敗しないコツ
- 初めての1本なら、ラグジュアリー部門・プレステージ部門の受賞作から。売り場が多く、店頭で試しやすい
- 香りそのものの面白さを知りたいなら、パフューム・エクストラオーディネール部門の受賞作を。名前を伏せて選ばれた香りなので、先入観なく試せる
- 気に入った受賞作があったら、調香師の名前を覚えておく。同じ調香師の別の香水も肌に合うことが多い
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出典(24)
- The Fragrance Foundation「Our History」
- The Fragrance Foundation「Awards FAQ」
- The Fragrance Foundation「Fragrance Hall of Fame(殿堂入りの一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 1979(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 1979年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2017(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2017年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2018(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2018年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2019(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2019年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2020(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2020年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2021(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2021年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2022(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2022年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2024(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2024年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2026(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2026年の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation UK「About TFF」
- The Fragrance Foundation UK「TFF Awards(過去の受賞一覧)」
- The Fragrance Foundation UK「2018 Winners」
- The Fragrance Foundation UK「2019 Winners」
- The Fragrance Foundation UK「2020 Winners」
- The Fragrance Foundation UK「2022 Winners」
- The Fragrance Foundation UK「2025 Winners」
- The Perfume Society「The Fragrance Foundation Awards 2019」
- Persolaise「Fragrance Foundation UK FiFi Awards(2014年5月)」
- Premium Beauty News「Fragrance Foundation France: les FiFi Awards deviennent les FFFAR」
- Premium Beauty News「Inside Marc-Antoine Barrois' vision」
- Wikipedia(英語版)「CK One」









