ゲラン家のもう一つの名門「ニコライ」とは?パトリシア・ドゥ・ニコライの経歴と傑作選
ゲラン家の調香師はなぜ途切れたのかで、ゲランの外で香りをつくり続けた一族の女性として登場したのが、パトリシア・ドゥ・ニコライです。彼女が夫と1989年に立ち上げたブランドがニコライ。当サイトでも、最初の作品ナンバーワンはよく読まれている香水のひとつです。この記事では、彼女の経歴を資料で確かめられる範囲でたどり、代表作と、どんな場面にどれを選ぶかをまとめます。
2026.10.27 · 9分で読めます

ゲラン家に生まれた調香師
パトリシア・ドゥ・ニコライは1957年にパリで生まれました。Wikipedia 英語版によると、ゲランを大きく育てたピエール・ゲランのひ孫で、一族最後の専属調香師ジャン=ポール・ゲランの姪にあたります。2014年のインタビューでは、生まれてから20年ほどをパリのゲラン家の家で過ごしたと語っています。
大学で化学を学んだあと、ヴェルサイユの調香学校 ISIPCA(ゲラン家のジャン=ジャック・ゲランが設立した、香水・化粧品・食品香料の専門学校)に進みました。その後は香料会社で経験を積みます。Wikipedia によると、フロラシンス(1982〜1984年)とクエスト・インターナショナル(1984〜1989年)に在籍し、クエスト時代にはソフィア・グロスマンとともにランコムの「トレゾア」(1990年)の仕事にも関わりました。
ただ、ゲランの調香師になる道は開かれませんでした。同じインタビューで彼女は、1980年代のゲランを率いていた親族は「一族の女性は働くべきではないと考えていた」と話しています。このいきさつはゲラン家の調香師はなぜ途切れたのかでくわしく紹介しました。一族の調香師の系譜はゲラン家の調香師たちと作品の系譜にまとめています。
「自由に香りをつくりたかった」
クエストを辞めた理由について、彼女は「消費者調査やマーケティングの問いをもとに香りをつくるやり方に縛られていた。とても不満で、自由になりたかった」と語っています。いまも「マーケティングの考えに関係なく、つくりたいときに自分の香水をつくれる、自由な女性」だと自分を表現しています。
1988年の受賞と、1989年の創業
転機は1988年でした。フランス調香師協会(SFP)の若手調香師国際賞を、女性として初めて受けたのです。受賞作がのちのナンバーワンです。彼女は「調香師の世界で大きく知られるきっかけになった。正しい道にいるという運命のしるしのようだった」と振り返っています。
翌1989年、夫のジャン=ルイ・ミショーとともに自分たちのブランドを立ち上げます。フランス語版 Wikipedia によると、ミショーは商品づくりや店舗のデザイン、経営を担当しました。創作の拠点はパリ、製造は香水・化粧品の産業が集まるロワール地方のラ・フェルテ=サン=トーバンに置かれています。
パトリシア・ドゥ・ニコライとニコライの歩み
1957年
パリでゲラン家に生まれる
1982〜1989年
香料会社フロラシンス、クエスト・インターナショナルで調香師として働く
1988年
フランス調香師協会の若手調香師国際賞を女性で初めて受賞(作品はナンバーワン)
1989年
夫ジャン=ルイ・ミショーとブランドを創業
2008年
香りの保存機関オスモテークの会長に就任(2020年まで)
創業25周年のころ
名前を「ニコライ パフューマー クリエイター」に改め、息子アクセルが経営と創作に加わる
2008年からは、ヴェルサイユにある香りのアーカイブ「オスモテーク」の会長も務めました。廃番になった名香を当時の処方で再現・保存する機関で、創設者ジャン・ケルレオの次の会長です(フランス語版 Wikipedia では2020年まで)。
2015年のインタビュー記事によると、創業25周年を機にブランド名を「NICOLAÏ: PARFUMEUR-CRÉATEUR(ニコライ パフューマー クリエイター)」に改め、息子のアクセル・ドゥ・ニコライがゼネラルマネージャー兼、母の創作の協力者として加わりました。アクセルは LVMH やインターパルファムで働いた経験があり、「マーケティングがニコライの香りの DNA に影響してはならない」と語っています。
調香師が自分の名で、自分の香りを売る。今でこそ珍しくありませんが、ニコライはその早い例でした。同じように調香師が立ち上げたブランドは、調香師が自ら立ち上げたブランドでも紹介しています。
傑作選1:ナンバーワンとニューヨーク
ここからは代表作を紹介します。香りの説明は、ニコライ公式サイトの説明文に基づいています。ニコライには同じ名前で濃さの違う版(オードトワレと「インテンス」と呼ばれるオードパルファム)があるものも多いので、あわせて触れます。
1. 「ナンバーワン」:すべての始まりの白い花
公式に載る本人の言葉は「ナンバーワンの創作は、花の完璧さをとらえることだった」。華やかな白い花の香水を探している人が、最初に試す一本です。
2. 「ニューヨーク」と「ニューヨーク インテンス」:眠らない街のスパイス
公式によると、オードトワレはインテンスより軽く、昼間に向く明るい香り。インテンスは同じ骨組みをより濃くしたもので、香りの広がりと持ちが増し、「夜と寒い季節に」向くと書かれています。公式はインテンスを「彼女のシグネチャーのオードパルファム」とも呼んでいます。
傑作選2:イチジクとお茶、パチョリ、ムスク
3. 「フィグ ティー」:イチジクの木陰でお茶を
濃い版のフィグ ティー インテンスは、レモンとマンダリンの弾ける始まりに、キンモクセイとフルーティーなお茶の香りで干したイチジクを思わせる、と公式は書いています。イチジクの香水が好きな人はグリーン&フィグのニッチ香水、お茶の香りが好きな人はお茶の香りのニッチ香水も参考になります。
4. 「パチョリ」:オーケストラのヴァイオリン
公式は「肌に触れるビロードの愛撫」のような、やわらかなムスクと粉っぽい香りの「第二の肌」の香りと説明しています。本人の言葉は「やわらかなムスクを花のハートで包みたかった。上質な布のように穏やかで明るく、肌に直接語りかける香り」。肌になじむムスク系は肌になじむムスク系ニッチ香水でも紹介しています。
傑作選3:お菓子の香りと、明るい花と柑橘
7. 明るい花と柑橘:「キャップ ネロリ」と「ローズ ピヴォワンヌ」
キャップ ネロリは、コート・ダジュールのビターオレンジの木に捧げた香りで、公式は「陽光あふれるリヴィエラの散歩道のような、明るくさわやかな余韻」と書いています。ローズ ピヴォワンヌ(Wikipedia 英語版では1998年)は、ローズとピオニー(芍薬)が春の花束のように溶け合う香り。本人は「好きな二つの花」の組み合わせと語っています。
このほか、白い花とスパイスの「サクレブルー インテンス」は、公式が「かつての洗練を写した、大胆で忘れがたい香り」と説明する一本です。
シーン別:ニコライの選び方
公式の説明をもとに、場面ごとの選び方をまとめます。季節や時間の向き不向きは、公式が書いているもの(ニューヨークの2つの濃さ)以外は編集部の見立てです。
- 仕事や昼間に:ニューヨークのオードトワレ(公式が「昼間向き」と書く)、プードル ド ミュスク
- 夜や寒い季節に:ニューヨーク インテンス(公式が「夜と寒い季節に」と書く)、パチョリ
- 夏や休日に:キャップ ネロリ、フィグ ティー
- 華やかに装う日に:ナンバーワン、ローズ ピヴォワンヌ
- 甘い香りが好きなら:サントノーレ、パブロバ




どれから試すか迷ったら、ブランドの原点のナンバーワンと、公式がシグネチャーと呼ぶニューヨーク インテンスの2本を比べると、ニコライの「クラシックな香水の骨組みを、上質な原料で組み立てる」作風がつかみやすいと考えます(編集部の見立て)。ほかの名調香師の作品と比べたい人は名調香師の傑作を手頃に試すや現代の名調香師トップ10と代表作もどうぞ。
まとめ
- パトリシア・ドゥ・ニコライはゲラン家に生まれ、ジャン=ポール・ゲランの姪にあたる。化学と ISIPCA で学び、香料会社で経験を積んだ
- 1988年にフランス調香師協会の若手調香師国際賞を女性で初めて受け、翌1989年に夫ジャン=ルイ・ミショーとニコライを創業した
- 2008年からオスモテークの会長を務め、創業25周年を機に息子アクセルが経営と創作に加わった
- 代表作は白い花のナンバーワン、スパイスのニューヨーク、イチジクとお茶のフィグ ティー、パチョリ、ムスクのプードル ド ミュスクなど
- 同じ名前で濃さの違う版が多く、ニューヨークは公式がオードトワレを昼、インテンスを夜と寒い季節に勧めている
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この記事に出てくるノート
出典(17)
- Wikipedia(英語版)「Patricia de Nicolaï」
- Wikipedia(フランス語版)「Patricia de Nicolaï」
- CaFleureBon「Exclusive Interview with Mme Patricia de Nicolaï(2014年1月)」
- Kafkaesque「The New Nicolai Era: An Interview with Patricia & Axel de Nicolaï(2015年11月)」
- Nicolaï Paris 公式「Number One」
- Nicolaï Paris 公式「New York(オードトワレ)」
- Nicolaï Paris 公式「New York Intense」
- Nicolaï Paris 公式「Fig-Tea(オードトワレ)」
- Nicolaï Paris 公式「Fig-Tea Intense」
- Nicolaï Paris 公式「Patchouli Intense」
- Nicolaï Paris 公式「Poudre de Musc」
- Nicolaï Paris 公式「Saint-Honoré」
- Nicolaï Paris 公式「Pavlova」
- Nicolaï Paris 公式「Cap Néroli」
- Nicolaï Paris 公式「Rose Pivoine」
- Nicolaï Paris 公式「Sacrebleu」
- Wikipedia(英語版)「ISIPCA」
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