調香師・創設者の美学が宿るアルチザン香水ブランド特集|ラントロピスト・ペリス モンテカルロ・ウナム(UNUM)・ファセント・コモディティ
香水を「好きな香り」ではなく「好きな作り手」で選ぶと、次に試す1本が自然に見つかります。同じ人が作る香水には、素材の選び方や甘さの加減に共通する癖があるからです。この記事では、調香師や創設者の個人の美学がはっきり表に出ている6つのアルチザン(職人的な、という意味)ブランドを取り上げます。創業の事実は報道や公式サイトで確かめられたものだけを書き、香りの説明は各ブランドの公式説明文に基づいています。
2026.10.27 · 9分で読めます

ラントロピスト:ベルトラン・デュショフールの「制御された混沌」
ラントロピストは、2025年1月にパリで始まった、いちばん新しいブランドです。業界誌 BeautyMatter によると、CEO はドゥニ・ベライシュ、クリエイティブディレクターはベテラン調香師のベルトラン・デュショフール。デュショフールはラルチザン パフュームとも長く仕事をしてきた調香師で、DB にもノワール エクスキなどの作品が載っています。
ブランドの哲学は「制御された混沌の技」。光と影、柔らかさと荒さ、透明さと密度のような、正反対の要素をひとつの香りの中で釣り合わせることを目指しています。社名も、変化や混沌、変容にかかわる人を表す言葉です。最初のコレクションは、アルタムーラ、ブラン サダ、ドーン ウィスパーズ、ドリアンズ スプリーン、ジョードプル 6AM、スマンス ドゥースの6本でした。
ブラン サダ:芸者の白い化粧と畳
ドリアンズ スプリーンとアンサン ノワール
BeautyMatter によると、ドリアンズ スプリーンは2026年のフレグランス ファンデーション フランスの賞で、新人部門のベスト ニッチ パフュームに選ばれました。公式説明では、尽きない憂鬱を糧に、酒と刺激に溺れていく「ドリアン」という人物を描いた香りとされています。アンサン ノワールは「インクと血で綴られた愛の告白」。暗くスモーキーな赤いバラに、金属的なアルデヒド(石けんや金属のような輝きを足す合成香料)が緊張感を加えます。
ブランドは発売の1か月後にパリのマレ地区に旗艦店を開き、18か月で4大陸の288店舗に広がったと報じられています。デュショフールの過去の仕事を知りたい人は、世界を変えた天才調香師10人もあわせてどうぞ。
ペリス モンテカルロ:モナコの一族が追う「原料の純度」
ペリス モンテカルロは、2011年にジャン・ルカ・ペリスが立ち上げた、モナコを拠点とするブランドです。イタリアの経済紙 Milano Finanza によると、母体のペリス グループは1981年に父ミケーレ・ペリスが創業し、香水のほかスイスの製薬会社や3Dマウスの会社も持っています。グループは1775年創業の老舗ウビガンも傘下に置いています。ジャン・ルカは経営を担うと同時に、香りを作る「鼻」でもあると紹介されています。
作風は、ひとつの原料とその産地をはっきり名前に掲げることです。香水名の多くが「素材+産地」になっていて、公式説明も産地を旅する紀行文のように書かれています。
ローズ ドゥ タイフとジャスミン ドゥ ペイ
ローズ ドゥ タイフは、アラビア半島南西部、標高2000メートルの町タイフで育つダマスクローズが主役です。公式説明は、4月のタイフに着くと砂漠の上に巨大なバラの籠が浮かぶ蜃気楼のようだ、と描いています。濃度の高いエクストレ版もあります。
ジャスミン ドゥ ペイは、グラースのジャスミンが夜明けから日暮れまでに変わっていく様子を追った香りです。調香はエルメスの専属調香師として知られたジャン=クロード・エレナで、公式説明にも「ジャン=クロードに導かれ」て畑の小道を歩いたことが書かれています。
アンブル グリとサンタル デュ パシフィック
アンブル グリは、海を漂う龍涎香(マッコウクジラが生む香料)を探す旅をテーマに、アイリス、ローズ、ラブダナム、ベンゾイン、バニラ、ムスクで温かく仕上げた香りです。サンタル デュ パシフィックは、アジアとオセアニアが出会う太平洋の白檀がテーマ。ほかに、1967年のサマー・オブ・ラブの自由な空気とムスクを重ねたムスク エクストリームもあります。
ウナム(UNUM):教皇の祭服を香らせる芸術家
ウナムは、イタリアのフィリッポ・ソルチネッリが2013年に立ち上げたブランドです。香水ブログ Kafkaesque のインタビューによると、ソルチネッリは画家・写真家・音楽家でもある芸術家で、本業のアトリエ「LAVS」ではローマ教皇ベネディクト16世とフランシスコの祭服(儀式で着る衣装)を作ってきました。
ブランドの原点になったのがラウスです。同じブログによると、もともとは2人の教皇の祭服を香らせるためのルームスプレーで、教会のお香を軸にした「霊への賛歌」として作られました。ソルチネッリ自身が調香も手がけていると紹介されています。
香水名にはイタリア語やラテン語の詩的な言葉、教会や祈りにまつわる言葉が多く、ひとつひとつが短い物語の題のようです。アンニュイ ノワールのように、フランス語で「黒い倦怠」を意味する暗い題を持つものもあります。
- ブランドの成り立ち:教会の衣装のアトリエから生まれた香水
- 得意な香り:教会のお香を思わせる、静かで重い香り(ラウスの説明より)
- 選び方:まずラウスで作り手の原点を知り、気に入ればほかの作品へ
お香系の香りが好きな人は、木の種類で選ぶウッド系ニッチ香水7選も参考になります。
ファセントとコモディティ:選び方そのものを新しくする
ここからの2つは、香りの作り方より「香水の選び方・使い方」に新しい提案をしているブランドです。どちらも業界の経験者が、ニッチ香水をもっと身近にしようとして始めました。
ファセント(フランス/2023年)
ファセントは、2023年にファニー・フォルタン・デカンとエドウィナ・レトレが立ち上げたフランスのブランドです。インタビューによると、ファニーはゲランやカルヴェン、香料会社のフィルメニッヒなどで働き、エドウィナはディプティックやル ラボ、LVMH グループで経験を積みました。2人は、ニッチ香水がお高くとまって、日常から離れてしまったと感じていたそうです。
Premium Beauty News によると、ファセントの軸は「シグネチャー(ずっと同じ1本)」ではなく「レイヤリング(重ね付け)」。気分や必要に合わせて単品でも重ねても使えるようにし、価格も手の届く範囲に抑えています。調香は香料会社の CPL Aromas と DSM-Firmenich が担当しています。
名前の遊び心も特徴です。アイ フィグ ユーは、イチジクの葉と柑橘で始まり、シダーウッドとベチバーがドラマを添える「ドレスコードのある外の空気」の香り。クレーム ブリュラントは甘さが突き抜けない上品なバニラとアンバー。レッド フラッグはジンジャーとカルダモン、陰のあるアイリス、インセンスとビーツのアコードで作る、思いがけない恋のような香りです。2026年5月には、ポップコーンとマシュマロ、りんご飴のコーン スターが加わりました。
コモディティ(アメリカ・ニューヨーク/2013年)
コモディティは2013年創業のアメリカのブランドで、ニューヨークに旗艦店があります。公式サイトによると、現在のブランドを率いるのは「リファウンダー(再創業者)」でクリエイティブディレクターのヴィッケン・アルスラニアンです。
最大の特徴は、同じ香りを3つの「セント スペース」で選べることです。公式は「香水はひとつの香りが誰にでも合うものではない。自分だけのために控えめにまといたい人も、部屋を満たしたい人も、その中間を求める人もいる」と説明しています。肌の近くで香る「パーソナル」、ほどよい「エクスプレッシブ」、強く広がる「ボールド」の3段階です。
たとえばミルクなら、ミルク パーソナル、ミルク エクスプレッシブ、ミルク ボールドの3本があります。DB のノートでは、マホガニーとトンカビーンズが軸です。職場では控えめなパーソナル、休日はボールド、と使い分けられるのがこの仕組みの良さです。
ジュリエット ハズ ア ガン:ニナ・リッチのひ孫が作る「武器」としての香水
ジュリエット ハズ ア ガンは、2006年にロマーノ・リッチがパリで立ち上げたブランドです。ロマーノはファッションデザイナー、ニナ・リッチのひ孫にあたります。インタビューでは、社名はシェイクスピアのジュリエットを現代風に読みかえたもので、自立して大胆に自分の運命を握る女性を表し、「銃」は彼女の誘惑の武器である香水のこと、と語っています。
当サイトの検索で特に強いのがホワイト スピリットです。公式説明は「火が氷と出会う」香り。一見清純な白い花のブーケ(ジャスミンとチュベローズ)が、アンバーを帯びたドライでモダンなウッディの余韻と対照をなします。
ブランドを有名にしたのがノット ア パフュームです。同じインタビューによると、ふつうはベースノートとして使われるセタロックスという単一の素材だけで作られています。DB ではアンブロキサン(アンバーグリスに似た、乾いた温かい香りの合成香料)として登録されています。もっと強く香らせたい人向けにスーパードーズもあります。
毎日使いやすいのはムスク インビジブル。公式は「お気に入りのジーンズのように繊細で心地よい香り」で、仕事にもデートにも合うと説明しています。ロマーノ本人の調香とされるレディ ヴェンジェンスは、ローズとパチュリの自信に満ちた香りです。
作り手で選ぶ、6ブランドのまとめ
6つのブランドは、作り手の経歴も考え方もばらばらです。それでも共通しているのは、香水の名前と説明を読むだけで「この人は何を大事にしているか」が伝わることです。作り手を知ってから香りを試すと、好き嫌いの理由もはっきりします。
ほかの調香師の作品を追いたい人は世界を変えた天才調香師10人へ。今話題のニッチブランドを広く知りたい人は、同じ第2弾の最旬ニッチフレグランス名鑑と香水好きが最後にたどり着く「世界のカルト・ニッチフレグランス」8選がおすすめです。
まとめ
- ラントロピストは2025年パリ発。ベルトラン・デュショフールが「制御された混沌」を香りにする
- ペリス モンテカルロは2011年、モナコのジャン・ルカ・ペリスが創業。素材と産地を名前に掲げる
- ウナムは2013年、教皇の祭服を作るフィリッポ・ソルチネッリが創業。原点はお香のラウス
- ファセントは2023年フランス発で重ね付けを、コモディティは2013年アメリカ発で香りの強さ3段階を提案
- ジュリエット ハズ ア ガンは2006年、ニナ・リッチのひ孫ロマーノ・リッチが創業。ホワイト スピリット、ノット ア パフュームが人気
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この記事に出てくるノート
出典(10)
- BeautyMatter「Inside L'Entropiste's Meteoric Rise」
- Milano Finanza「Perris, le tre anime del gruppo che si divide fra profumi di nicchia, pharma e tech(2024年9月)」
- Kafkaesque「Interview: Filippo Sorcinelli of UNUM & LAVS(2015年9月)」
- Kafkaesque「Unum Lavs: Popes & Sunday Mass(2015年6月)」
- Premium Beauty News「Fascent banks on accessible modern niche perfumery」
- Ohmycream「Interview with... Fanny Fortin Descamps, founder of Fascent」
- Commodity 公式「Modern, American Perfumery(About)」
- Spa & Beauty Today「Beauty Boss: Romano Ricci, founder of Juliette Has A Gun」
- Wikipedia(英語版)「L'Artisan Parfumeur」
- Wikipedia(英語版)「Jean-Claude Ellena」
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