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Column · 素材の話

動物の香りの話 シベット、カストリウム、ハイラケウム

香水の説明で「アニマリック」という言葉を見かけることがあります。動物を思わせる、少し野性的で、肌のぬくもりのような香り。かつてその香りは、本当に動物から取られていました。ムスク、アンバーグリスに続いて、ほかの動物性香料とそのいまをたどります。

2026.10.22 · 5分で読めます

シベット ジャコウネコの香り

シベットは、アフリカジャコウネコ(*Civettictis civetta*)の会陰腺から取れる分泌物です。オスにもメスにもこの腺があります。ジャコウネコは名前に「ネコ」とつきますが、ネコの仲間ではありません。「シベット」という言葉は、フランス語の civette や、アラビア語の zabād にさかのぼるといわれます。

この分泌物は、何百年ものあいだ多くの香水の基本的な素材として使われてきました。シェイクスピアの『お気に召すまま』(第2幕第2場)にも、宮廷人の香水の「不潔な」出どころとして「シベットキャット」が登場します。作家のダニエル・デフォーが、ジャコウネコを飼って分泌物を集める事業に出資したという話も残っています。

分泌物を得るには、動物を殺して腺を取り出すか、生きたまま腺からかき取るかのどちらか。いまは後者が好まれています。それでも、問題は残ります。エチオピアでは、捕らえたジャコウネコを小さなおりに入れて飼いますが、その多くはストレスからか、3週間ほどで死んでしまうといいます。動物愛護の立場からの批判も強く、倫理的な理由と合成香料の発達によって、こうした慣行は少しずつ消えつつあります。

シベットの香りの中心となる成分はシベトンです。構造を明らかにしたのは、ムスコンの研究でも知られるレオポルト・ルジチカ。シベトンはムスクの主成分ムスコンと化学的に近い仲間で、いまではパーム油に含まれる物質を原料に合成できるようになりました。そのままでは強いムスクの香りですが、うんと薄めると心地よい香りに変わります。合成のシベトンは保留剤としても使われ、その香りは「清潔で、ムスクのようで、乾いていて、動物的で、甘い」と表されます。

ちょっと面白い話もあります。野外の生物学者たちは、ジャガーを自動撮影カメラの前に誘い出すのに、カルバン・クラインの男性用コロン「オブセッション」を使ってきたそうです。コロンに含まれるシベトンが、なわばりのしるしの匂いに似ているからだと考えられています。

カストリウム ビーバーの香り

カストリウムは、ビーバーの「カストルサック」から取れる香料です。カストルサックは骨盤としっぽの付け根のあいだ、皮膚の下にある袋状の器官で、細胞のレベルでは本当の意味での腺ではありません。乾燥させてアルコールに浸し、チンキにして2年以上熟成させます。香水では、とくにレザーの香りをつくるのに使われてきました。

カストリウムを使った香水として、エメロード、アンテウス、キュイール・ド・ルシー、マジ ノワール、カラクテール、マダム、ジバンシィIII、そしてシャリマーなどの名前が挙げられます。どれも、深みとあたたかさで知られる香りです。

意外なことに、カストリウムは食品の香りづけにも使われてきました。1965年には米国の香料業界団体(FEMA)が安全と認める素材のリストに加えています。ただ、その量はわずかで、業界全体で年におよそ100kg。バニリンの約120万kgと比べると、ほんのひと握りです。スウェーデンには、カストリウムで香りをつけた「ベーヴェルホイト」という蒸留酒の伝統もあります。

ハイラケウム 「アフリカの石」

三つめの素材ハイラケウムは、少し変わっています。ケープハイラックス(イワハイラックス)という小さな動物の尿と糞が、長い年月をかけて岩のように固まったもので、「アフリカン・ストーン」とも呼ばれます。ハイラックスは何世代にもわたって同じ場所で排泄を続けるため、岩陰や洞窟にたまり場ができ、それは5万年以上も残ることがあるといいます。

その香りは、ムスク、カストリウム、シベット、タバコ、そして沈香(アガーウッド)をあわせたような複雑なもの。動物を傷つけずに集められる点では、ほかの動物性香料と大きく違います。ただし、何千年もかけてできるものなので、事実上は再生できない資源です。しかも、たまった層は過去の気候や植生を記録した資料でもあり、アフリカやアラビアの乾燥地では、気候の移り変わりを知るほとんど唯一の手がかりになることもあります。

動物由来の香料

動物由来の香料
香料もとになる動物取り方とひとこと
シベットアフリカジャコウネコ会陰腺の分泌物。主成分はシベトン
カストリウムビーバーカストルサックを乾燥・チンキに。レザーの香り
ハイラケウムケープハイラックス化石化した排泄物。動物を傷つけずに集める
ムスクジャコウジカいまはほぼすべて合成
アンバーグリスマッコウクジラ海を漂う結石。合成のアンブロキサンも

いまのアニマリックノート

アフリカジャコウネコは、2008年から国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「低懸念」とされています。ボツワナの個体群は、ワシントン条約の附属書IIIに掲げられています。とはいえ、いまの香水の多くでは、動物から取った香料のかわりに、合成のシベトンなどの素材が使われるようになりました。

1921年にジャック・ゲランが生み出し、1925年にあらためて発表されたシャリマーは、シベットを含む香りとして知られる名香です。動物の香りは、それだけでは強烈でも、ごく少量を加えることで香り全体に深みと官能的なぬくもりを与えます。

いまでは、あえて動物の名前を掲げた香水もあります。たとえばゾロジストのシベットのように。ノートにシベットやカストリウムと書かれていても、それが本物の動物由来とは限りません。気になるときは、ブランドの説明を確かめてみてください。

まとめ

  • シベットはジャコウネコの会陰腺の分泌物。主成分シベトンはいまや合成できる
  • カストリウムはビーバーのカストルサックから。レザーの香りに使われてきた
  • ハイラケウムはハイラックスの化石化した排泄物。動物を傷つけずに集める
  • 倫理と合成香料の発達で、動物から取る慣行は少しずつ消えつつある
出典(6)
確認日 2026.10.22。年代や数字には諸説あるものもあります。