ウード(沈香) 傷ついた木がつくる香り
中東の香水に欠かせないウード。日本では昔から沈香と呼ばれ、香道で聞かれてきた香木と同じものです。この香りは、木が傷つき、病気と闘ったときにしか生まれません。
2026.10.22 · 4分で読めます

木の「防御反応」が香る
ウード(アガーウッド)は、ジンチョウゲ科アクイラリア属などの木の心材にできる、黒っぽく樹脂を含んだ部分です。健康な木の材は淡い色で、ほとんど香りません。ところが、木がカビ(菌)に感染すると、身を守るために樹脂を分泌します。その樹脂がしみ込んだ部分が、香り高い香木になるのです。
名前の「ウード」は、アラビア語で「棒」を意味する عود(ʿūd)から。英語ではアガーウッドやアロエスウッドとも呼ばれます。日本の「沈香」という名前は、樹脂がたまって水に沈むほど重くなることに由来します(日本の香りの歴史)。
木が香木になるまで
- 01傷つく幹が傷つき、菌が入り込む
- 02守る木が防御のために樹脂を分泌する
- 03しみ込む樹脂が心材にたまり、黒く重くなる
- 04取り出す削って焚く、または蒸留してオイルに
3,000年の香り
ウードの歴史はとても古く、3,000年以上前の古代エジプトでは、葬儀の儀式で香として焚かれていました。インドでは紀元前1400年ごろのヴェーダに、香りのよい産物として記されています。
1世紀のギリシアの医師ディオスコリデスも、著書『薬物誌』で沈香の薬効と香としての使い方を記しています。口にふくんで息をさわやかにすることもあったようです。新約聖書の『ヨハネによる福音書』では、イエスの遺体を包む亜麻布に、没薬と沈香(アロエ)が75ポンドほども使われたと書かれています。
日本では、最上級の沈香を伽羅(きゃら)と呼びます。奈良の正倉院に伝わる香木「蘭奢待」も沈香の一種です。中東の香油、インドの香、日本の香道。同じ木の香りが、それぞれの土地で別の文化を育ててきました。
沈香ができるまでには長い時間がかかります。原木が成木になるまでに約20年、沈香ができるまでに50年、高品質のものには100〜150年かかるといわれます。最上級の伽羅は樹脂の含有量が5割を超えるとされ、その名は、サンスクリット語で油分が多く色の濃い沈香を指す kālāguru(黒沈香)に由来するといわれます。
16世紀の終わり、いまのベトナム中部を治めた阮氏は中国や日本との交易を奨励し、沈香を3つの等級に分けて輸出しました。最上の「キャラムバック(奇楠)」は、ホイアンで15両で買ったものが長崎では600両で売れたと伝えられます。日本の伽羅への憧れが、遠い港の商いを動かしていたのです。
聖書にも沈香らしき香りが登場します。旧約聖書の『箴言』には「寝床を没薬、アロエ、シナモンで香らせました」という一節があり、この「アロエ」は香りのない植物のアロエではなく、沈香か白檀のことだと考えられています。中東では、いまも家で沈香を焚いて香りを楽しむ文化があり、モスクでも香木のかけらが焚かれてきました。
ウードの産地と文化
- インド 植林が進む
- バングラデシュ 植林が進む
- インドシナ半島東部 蘭奢待の産地と推定される地域
- マレー半島 A. malaccensis
- 日本 沈香・伽羅
70kgの木から、20ml
香水に使われるウードオイルは、ウードの木を水蒸気で蒸留してつくります。その量はごくわずかで、70kgの木から取れるオイルは20mlを超えません。成分も非常に複雑で、150種類以上の化合物が見つかっています。
あまりに高価なため、混ぜものをしたウードオイルは昔から問題になってきました。また、多くの香水ブランドが「ウード」の名を冠した香水を出していますが、その多くは、香りの成分を組み合わせてつくるウードのアコードを使っています。
香水の中では主にラストノート(ベース)として使われ、伝統的にローズと組み合わされます。中東で愛されてきたこの組み合わせは、いまや世界中の香水に広がりました(ローズオイルの谷)。
守られる木
需要が高まるにつれて、野生のアクイラリアは減っていきました。1995年、主な原料木であるアクイラリア・マラケンシスが、ワシントン条約(CITES)の附属書IIに掲載されます。2004年には、アクイラリア属のすべての種が附属書IIに加わりました。国際的な取引が監視される対象になったのです。
一方で、インド、バングラデシュ、ブータンなどでは植林が進み、マレーシアやスリランカでも商業栽培が再び始まっています。植林した木に菌を植えつけて樹脂をつくらせる技術も、さまざまに開発されています。
ウードのプロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 沈香、アガーウッド、アロエスウッド |
| 原料木 | ジンチョウゲ科アクイラリア属など |
| 香りのでき方 | 菌の感染に対する木の防御反応で樹脂がたまる |
| オイルの収量 | 70kgの木から20ml以下 |
| 規制 | CITES 附属書II(1995年〜、2004年に全種) |
ウードを名前に掲げる香水
まとめ
- ウード(沈香)は、菌に感染した木が防御のためにつくる樹脂
- 古代エジプトの葬儀やインドのヴェーダにも登場する
- 70kgの木からオイルは20ml以下。多くの香水はアコードを使う
- アクイラリア属は2004年に全種が CITES 附属書IIに
この記事に出てくる
出典(4)
- Wikipedia(英語版)「Agarwood」
- Wikipedia(日本語版)「沈香」
- Wikipedia(日本語版)「蘭奢待」
- Natural Earth「Natural Earth(地図の陸地データ・パブリックドメイン)」





