アキガラウッド(Akigalawood)とは?パチョリから生まれたジボダンの新しいウッディと、カンタン・ビッシュの代表香水
香水のノート表で、最近よく見かける「アキガラウッド」。木の名前のように見えますが、森に生えている木ではありません。スイスの香料会社ジボダンが、パチョリの油を酵素で変えてつくった、新しいウッディ(木を思わせる香り)の素材です。どんな香りなのか、どうやって生まれたのか、そして調香師カンタン・ビッシュをはじめ、どんな香水に使われているのかを見ていきましょう。
2026.10.27 · 10分で読めます

アキガラウッドとは?ジボダンの「キャプティブ」
アキガラウッドは、ジボダン(スイスに本社を置く世界最大級の香料会社)の登録商標です。いわゆるキャプティブ(その香料会社だけが持ち、社内の調香師だけが使える独占香料という意味)で、ほかの香料会社の調香師は使えません。業界誌 Glossy は、ジボダンがこの素材の独占的な権利を持ち続けていると伝えています。
つまり、ノート表にアキガラウッドの名前がある香水は、ジボダンの調香師がつくった香水だと考えられます。香水の「顔ぶれ」から、どの香料会社が関わっているかが見えてくる。キャプティブ香料には、そんな面白さもあります。
パチョリ油を酵素で変えてつくる
材料は、パチョリ(シソ科の植物の葉から取る、土っぽく深い香りの精油。パチュリとも書きます)です。ジボダンの公式サイトは、アキガラウッドを「アップサイクル(本来は使い道の少ないものを、価値のあるものにつくり替えること)したパチョリ油から、ホワイトバイオテクノロジー(微生物や酵素の力を工業に使う技術)でつくる素材」と紹介しています。同じページでは「100%天然の香料」「生分解性(自然の中で分解される性質)がある」とも書かれています。
使われるのは、ラッカーゼという酵素(体の中や自然界で化学反応を助けるたんぱく質)です。ファッション誌 Lampoon は、ジボダンの研究チームが、水と塩だけを使う処理でラッカーゼを働かせ、天然の素材をそれまで調香師が手にしたことのない新しい香りの成分に変えたと伝えています。ジボダンが2010年に優先権を主張した特許にも、パチョリ油やその軽い成分を、ラッカーゼと酸素で酸化させる製法が書かれています。
香料の専門ブログ Fragroom でのジボダン関係者へのインタビューによると、アキガラウッドは分子1つではなく、いくつもの成分が混ざった「複合体」です。イソ E スーパーのような合成香料とは少し違い、天然の油をもとにして、性格だけを変えた素材といえます。
- つくっている会社: ジボダン(キャプティブなので社内の調香師だけが使う)
- 原料: パチョリ油(アップサイクルしたもの)
- つくり方: ラッカーゼという酵素を使うバイオテクノロジー
どんな香り?ペッパー・パチョリ・沈香の面
ジボダンの調香師ジョルディ・フェルナンデスは、Fragroom のインタビューで「ペッパーのニュアンスと、パチョリや沈香を思わせるウッディな面を合わせた、いきいきとしたスパイシーな性格」「洗練されて長く続く残り香」と語っています。Glossy は、同社の調香師クリスティン・ハッサンの「いろいろな面を一度に満たしてくれる素材」という意味の言葉を紹介しています。
「ウード」を軽く、明るく見せる
ウード(沈香)は、香木の中でもとくに重く、くすんだ香りを持つ素材です。アキガラウッドはその面を少しだけ持ちながら、全体はすっきりと乾いています。そのため、ウードほど重くしたくないけれど、深みのある木の香りがほしい、というときに使いやすいと考えられます(推測)。実際、後で紹介する香水の多くは、重厚なウッディではなく、明るいスパイスや柑橘、白い花と組み合わされています。
アキガラウッドの歩み
2010
ジボダンが、パチョリ油をラッカーゼで酸化させる製法の特許の優先権を主張
2014
ジボダンの調香師のパレット(使える香料の一覧)に加わる。ブラジルのナトゥーラ「#ウルバーノ」で初めて香水に使われる
2015
ジョン ヴァルヴェイトス「ダーク レベル」、ミュウミュウの最初の香水に使われる
2016
コム デ ギャルソン「ブラックペッパー」
2019
モンブラン「エクスプローラー」
2024
カンタン・ビッシュのアムアージュ「ガイダンス」が、フランスのフレグランス・ファウンデーション賞でベスト・ニッチ・フレグランスに
カンタン・ビッシュとアキガラウッド
アキガラウッドを主役にしたボワ アンペリアル
ビッシュは、パリのブランドエッセンシャル パルファンのボワ アンペリアルについて、「貴重で特別な木、アキガラウッドを中心にこの香りをつくった。新鮮なスパイスで飾った、パチョリとタイバジルのあいだのコントラストでできた大きなウッディノート」と語っています。ブランドの公式ページは、アキガラウッドの「スパイシーでウッディな個性」を、インドネシア産のパチョリ油がさらに引き立てていると説明しています。
公式の説明では、摘みたてのバジルの葉と、ネパール産のティムットペッパー(グレープフルーツのような香りを持つ山椒の仲間)のさわやかさが、どっしりした木の香りと対比をつくります。エッセンシャル パルファンは、この香りを自社のベストセラーと紹介しています。アキガラウッドがどんな香りかを知りたい人が、最初に試す一本として向いているでしょう。
アムアージュの「ガイダンス」と「パーパス」
香りの濃度を46%まで高めたガイダンス 46にも、ベースにアキガラウッドが使われています。Glossy によると、ガイダンスとガイダンス 46 は、アムアージュの世界での売上の約25%を占めるほどの人気です。
アキガラウッドを使ったそのほかの代表香水
アキガラウッドはジボダンのキャプティブなので、使っているのはジボダンの調香師たちです。ビッシュ以外の作品からも、代表的なものを紹介します。
イクス・ニイロとジョルディ・フェルナンデス
パリのブランドイクス・ニイロのブルー タリスマンは、ジョルディ・フェルナンデスの作品です。当サイトのノートでは、洋ナシやベルガモット、ジンジャーのみずみずしい始まりから、ベースでアンブロフィックス、ムスクとともにアキガラウッドが香ります。Glossy によると、2025年のイクス・ニイロのアメリカでの売上の40%をこの一本が占めました。
トム フォード「ボワ パシフィック」
トム フォードのボワ パシフィックは、ジボダンのロドリゴ・フローレス=ルーらの作品です。公式の説明では「鮮やかなアキガラウッドが、ウッディでスパイシーなブレンドの上に、ターメリックの新鮮でアロマティックなスパイスを浮かび上がらせる」とあり、カルダモンや乳香、オリスバターも使われています。アキガラウッドが名前入りで主役級に紹介されている、わかりやすい例です。
モンブラン「エクスプローラー」とコム デ ギャルソン「ブラックペッパー」
さらに早い使用例が、コム デ ギャルソンのブラックペッパー(2016年)です。名前のとおりこしょうが主題の香水で、ペッパーの面を持つアキガラウッドと相性のよいテーマといえます。当サイトでは、ジボダンのアントワーヌ・メゾンデューの作品として登録されています。
パルファム ドゥ マルリー「ヴァラヤ」と「キャッスリー」
白い花やムスクの香水に入ると、アキガラウッドは表に出すぎず、全体の輪郭を引き締める役になります。ノート表に名前があっても「木の香水」とは限らない、というのも覚えておくと選びやすくなります。
アキガラウッドの香水の選び方
ほかの現代的なウッディ素材と比べてみるのもおすすめです。分子1つの香水で知られるイソ E スーパー、本物の香木のウードを読むと、アキガラウッドの「軽いのに奥行きがある」立ち位置がよくわかります。木の香りのニッチ香水を広く知りたい人はウッディなニッチ香水と重厚なウッディ香水、調香師から香水を選びたい人は現代の名調香師トップ10もどうぞ。
まとめ
- アキガラウッドは、ジボダンだけが使えるキャプティブ香料
- パチョリ油を、ラッカーゼという酵素で変えてつくるバイオテクノロジーの素材
- 香りは、ペッパーのスパイスと、パチョリや沈香を思わせる乾いたウッディ
- 2014年にデビュー。カンタン・ビッシュのボワ アンペリアルやガイダンスで広く知られるようになった
- ウッディだけでなく、白い花やシトラスの香水の輪郭づくりにも使われる
次の1本を探す
この記事に出てくるノート
出典(11)
- Givaudan 公式「Biotechnology: making innovative ingredients with love for nature」
- Glossy「What's that smell? It's Akigalawood(2026年4月)」
- Fragroom「Akigalawood: Givaudan's Jordi Fernández And Pierre Arnoux Talk About The Captive Ingredient(2026年5月)」
- Lampoon Magazine「Perfume The Hedonist, Ex Nihilo(2022年8月)」
- Google Patents「US8883468B2: 1-hydroxy-octahydroazulenes as fragrances(Givaudan SA)」
- Essential Parfums 公式「Quentin Bisch(調香師ページ / Bois Impérial)」
- Luckyscent「Quentin Bisch(調香師紹介)」
- Amouage 公式「Guidance」
- Amouage 公式「Guidance 46」
- TOM FORD BEAUTY 公式「Bois Pacifique Eau de Parfum」
- Parfums de Marly 公式「Valaya Eau de Parfum」















