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Column · 香りの産地

ローズオイルの谷 ブルガリア、トルコ、タイフのダマスクローズ

香水に使われるバラの多くは、庭で見るバラとは少し違う品種です。主役はダマスクローズ。その一大産地が、ブルガリアの山あいにある「バラの谷」です。夜明け前に摘まれた花びらが、どうやって一滴のオイルになるのかを見ていきます。

2026.10.22 · 4分で読めます

香水のバラは2種類

ローズオイルの原料として栽培されている主なバラは2種類です。ひとつはダマスクローズ(Rosa damascena)。もうひとつはキャベツのように花びらが重なるセンティフォリア(Rosa centifolia)で、モロッコ、エジプト、フランスで多く育てられています。グラースで「メイローズ」と呼ばれるのはこのセンティフォリアです。

ダマスクローズのオイルは、3つの産地が市場の7割以上を占めています。ブルガリア(ブルガリアンローズ)、トルコ(ターキッシュローズ)、そしてサウジアラビアのタイフ(タイフローズ)です。

ブルガリアの「バラの谷」

ブルガリア中部、バルカン山脈の南に広がるバラの谷は、地質的には西のカルロヴォ谷と東のカザンラク谷という2つの谷からなります。何世紀も前からバラが育てられてきた土地で、世界のローズオイルの半分近く(1.7トン)を生み出しているとされます。産業の中心はカザンラク。カルロヴォ、ソポト、カロフェルなどの町も続きます。

カザンラクのバラの谷は長さ約95km、平均の標高は約350m、面積は1,895km²。北をバルカン山脈、南をスレドナ・ゴラ山脈にはさまれています。摘み取りは伝統的に女性の仕事で、器用さと根気がいる作業です。花は一輪ずつ丁寧に切られて柳のかごに入れられ、毎年、バラとローズオイルを祝う祭りも開かれます。

摘み取りの季節は5月から6月。2014年9月には「ブルガリアン・ローズオイル」が、EUの地理的表示保護(PGI)に認められました。シャンパーニュ地方のシャンパンのように、産地の名前そのものが品質の証になったわけです。

ローズの産地

バラの谷トルコタイフカナウジグラースモロッコエジプトイラン
  • バラの谷(カザンラク) ブルガリア。ダマスクローズ
  • トルコ ダマスクローズ
  • タイフ サウジアラビア。ダマスクローズ
  • カナウジ インド。「東洋のグラース」
  • グラース フランス。センティフォリア
  • モロッコ センティフォリア
  • エジプト センティフォリア
  • イラン ローズオイルの技術が生まれたとされる土地
略図・陸地: Natural Earth / 黒い点はダマスクローズ、白い点はセンティフォリアの主な産地。

夜明け前に摘む理由

バラの花は、夜明け前の朝のうちに手で摘まれ、その日のうちに蒸留されます。香りが逃げてしまう前に、できるだけ新鮮なまま釜に入れるためです。

必要な花びらの量は膨大です。抽出の方法や品種によって違いますが、得られるオイルは原料のおよそ3,000分の1。何千本もの花から、ほんのわずかな量しか取れません。ローズが高価な香料である理由がよくわかります。

蒸留では、花びらと水を釜で熱し、蒸気とともに出てくるオイルを集めます。ただ、このとき直接取れるオイルは全体の2割ほど。残りの8割は蒸留水の中に溶けたまま残るため、その水をもう一度蒸留するコホベーションという方法で回収します。二つを合わせたものが、市場に出るローズオイルです。

これだけ手間のかかる高価な香料なので、ゼラニウムやパルマローザといった、バラに似た香りを持つ安い精油で増量されることもあります。本物のローズを見分けるのは、専門家にとっても簡単ではありません。

花びらから香料へ

  1. 01摘む夜明け前の朝、手で摘み取る
  2. 02蒸留するその日のうちに水蒸気蒸留 → ローズオットー
  3. 03溶剤で抽出別の方法で → ローズアブソリュート
  4. 04残った水蒸留で出る芳香水がローズウォーター

同じバラでも、取り出し方で香りは変わります。水蒸気蒸留でつくるローズオットー、溶剤で抽出するローズアブソリュート。香水には、アブソリュートのほうがよく使われます。蒸留の副産物として出るローズウォーターは手ごろな価格で、食品の香りづけやスキンケアに広く使われています。

1%に満たない成分が、香りを決める

ローズオイルには多くの成分が含まれますが、香りを特徴づけているのは、ごく微量の成分です。β-ダマセノン、β-ダマスコン、β-イオノン、ローズオキサイドといった成分は、それぞれ1%前後かそれ以下しか含まれていません。それでも、においを感じる閾値がとても低いため、香りの印象の9割強を担っているといわれます。とくにβ-ダマセノンの存在は、ローズオイルの品質の目安とされています。

香水のノートに「ローズ」とひとことで書かれていても、その中身は産地、品種、抽出法によってまったく違います。ダマスクの濃厚さか、センティフォリアの柔らかさか。そんな視点でローズの香水を比べてみると、新しい発見があるはずです。

ペルシアから、東洋のグラースまで

ローズオイルの製法は、古代のイラン(ペルシア)で生まれたといわれます。ローズのアター(香油)は、かつてインド、ペルシア、シリア、オスマン帝国でつくられていました。インドのカナウジはいまもローズアターの重要な産地で、「東洋のグラース」と呼ばれています。

まとめ

  • 香水用のバラはダマスクローズとセンティフォリアの2種類が中心
  • ダマスクローズはブルガリア・トルコ・タイフの3産地で市場の7割以上
  • ブルガリアの摘み取りは5〜6月。夜明け前に摘み、その日に蒸留
  • 得られるオイルは原料のおよそ3,000分の1
出典(3)
確認日 2026.10.22。年代や数字には諸説あるものもあります。