賛否両論で香水界をざわつかせた問題作7選|「神作か、異物か」が真っ二つに割れる理由
香水には、「大好き」と「無理」がほぼ半々に割れる作品があります。わざと嫌われる香りを狙ったもの、甘さや暗さが極端なもの、そして売れすぎたせいで反発を買ったもの。賛否の理由は作品ごとにまったく違います。ここでは香水の歴史に残る7本の問題作を取り上げ、なぜ意見が割れたのかを順に見ていきます。
2026.10.23 · 8分で読めます

香水の「賛否両論」はどこから生まれる?
香水の評価が割れる理由は、大きく3つに分けられます。ひとつはテーマそのものが挑発的なこと。体液やドラッグなど、ふだんは香水が避ける題材をあえて選ぶ作品です。ふたつめは香りが極端なこと。甘さ、暗さ、土っぽさなど、ひとつの方向に振り切った香りは、刺さる人には深く刺さり、合わない人には耐えられません。
みっつめは、意外にも売れすぎです。街のあちこちで同じ香りがするようになると、「みんなと同じは嫌だ」という反発が生まれます。香りそのものは変わっていないのに、評価だけが変わっていくのです。
以下の7本は、この3つのどれか(ときには複数)に当てはまります。気になった1本は、まず小さなサンプルやアトマイザー(香水を小分けにして持ち歩くための小さなスプレー容器)で試すのがおすすめです。
この記事で取り上げる7本
セクレシオン・マニフィーク:「5人にだけ好かれればいい」香水
問題作の代表格が、フランスのエタ リーブル ドランジュ(État Libre d'Orange)のセクレシオン・マニフィークです。ブランドは2006年にエティエンヌ・ドゥ・スワルトが創業し、この香水はその年に発表されました。名前はフランス語で「見事な分泌物」という意味です。
調香師(香水の香りを組み立てる専門家)のアントワーヌ・リーは、インタビューで、創業者から「地球上で5人しか好きにならないような、挑発的な香水をつくりたい」と言われたと語っています。リーが考えたのは、恋に落ちたときに体を流れる液体、つまり血・唾液・精液・汗が、香水になったらどんな匂いがするか、ということでした。
「いい匂いでなければ香水ではない」という常識に疑問を投げかけた点で、この香水は今も話題にされ続けています。
オピウムとエンジェル:名前と甘さで世界を揺らした2本
オピウム(1977年):名前への抗議が、逆に売れ行きを伸ばした
イヴ・サンローランのオピウムは、1977年に調香師ジャン・アミックとジャン=ルイ・シューザックによってつくられました。オピウムとは、麻薬のアヘンのことです。
この名前に対しては、中国系アメリカ人の人々が抗議しました。アヘンは中国で多くの命を奪ったものだ、という理由です。ところが、その騒ぎが報道されたことで知名度が上がり、オピウムはまもなくベストセラーになりました。論争が宣伝になってしまった、香水史でも珍しい例です。
エンジェル(1992年):「お菓子のような香水」の始まり
ミュグレーのエンジェルは、1992年にオリヴィエ・クレスプとイヴ・ドゥ・シリスがつくった香水です。プラリネ(ナッツを砂糖で煮つめたお菓子)の甘さと、土っぽいパチョリを組み合わせ、「最初のモダン・グルマン」と呼ばれています。グルマンとは、お菓子や食べ物のように甘くおいしそうな香りの系統のことです。
当時、ここまで甘く濃い香水はほとんどありませんでした。そのため「甘すぎて頭が痛い」という声と、「これしかつけられない」という熱烈なファンにはっきり分かれます。それでも売れ行きは強く、フランスではシャネルの N°5 を抜いて一番売れた香水になったこともあります。甘い香水の流れについてはグルマンの話でも詳しく書いています。
ブラック アフガーノとブラック オーキッド:暗さを極めた香り
イタリア出身の調香師アレッサンドロ・グアルティエーリが、自分のブランドとして始めたのがナゾマット(Nasomatto)です。名前はイタリア語で「狂った鼻」。その代表作ブラック アフガーノは2009年の発売で、公式サイトでは「最高品質のハシシ(大麻の樹脂)を思わせる」こと、「一時的な至福の感覚を呼び起こす」ことを目指した香りだと説明されています。キャップには焦がしたオーク材が使われています。
もちろん香水に大麻そのものが入っているわけではありません。樹脂、煙、木、甘さを重ねて「そういう気配」をつくっています。テーマのきわどさと、ひと吹きで部屋を満たす濃さから、ニッチ香水(大手ではなく、小さなブランドが少量でつくる個性的な香水)の世界で好き嫌いが大きく分かれる1本です。
トム フォードのブラック オーキッドは、2006年に発売されたトム フォード最初の香水です。香料会社ジボダン(世界最大の香料メーカー)の調香師たちがつくりました。トップ(つけた直後に香る部分)から、トリュフ(地中で育つ高級キノコ)のような土っぽく塩気のある香りが立ち、そこに黒っぽい花、パチョリ、チョコレートのような甘さが重なります。
香水ブログ「Bois de Jasmin」は発売当時のレビューで、この香水を魅惑的だと評価しながらも、最初の大胆な印象がウッディとバニラで平らになってしまうのが惜しい、とも書いています。華やかさと不穏さが同居する香りなので、「最高に色っぽい」と「重くて苦手」に評価が割れます。
サンタル33・バカラ ルージュ 540・ソヴァージュ:売れすぎた名香の宿命
サンタル33:「電車の3人に1人が同じ匂い」
ル ラボのサンタル33は、2011年に調香師フランク・フォルクルがつくったサンダルウッドの香水です。もとは香水として提案されたものの、2006年のブランド立ち上げのときには採用されず、まずキャンドルとルームスプレー「サンタル26」になりました。客からの要望を受けて、2011年に香水として発売されたという経緯があります。
その結果、ニューヨークの地下鉄でもロンドンのバーでも同じ香りがする、と言われるほどになります。2018年には、ニューヨークでのサンタル33の広がりぶりをからかう動画もつくられました。Wikipedia 英語版では、社会学者ピエール・ブルデューの「ディスタンクシオン(人は持ち物や好みで他人との違いを示そうとする、という考え方)」を引いて、みんなが使うようになると「自分らしさの香り」としての価値が下がり、好きだった人ほど離れていく現象として説明されています。
バカラ ルージュ 540:TikTok で世界的ヒット、そして「そっくりさん」の大量発生
バカラ ルージュ 540は、クリスタルブランドのバカラが創業250周年のためにフランシス・クルジャンに依頼した香水です。最初は1本3,000ユーロのバカラ製クリスタルボトルに入った限定品として2014年秋に登場しました。ノートはヘディオン(ジャスミンの香り成分をもとにした透明感のある合成香料)、アンブロキサン、シダー、サフランです。
その後、TikTok の香水紹介で火がつき、世界で最も売れる香水のひとつになりました。同時に、似た香りを安く再現した「デュープ(そっくりさん)」が大量に出回り、どこでも似た香りがする状態になったことが、賛否を呼ぶ理由になっています。
ソヴァージュ:世界一売れる香水と、広告の炎上
ディオールのソヴァージュは、2015年にディオール専属の調香師フランソワ・ドゥマシーがつくった男性向けの香水です。2021年からは、男女を合わせて世界で最も売れている香水とされ、ディオールによれば約30秒に1本、年に1,200万本以上が売れています。
一方で2019年には、先住民族の文化を扱った広告「We Are the Land」の予告映像が、先住民の人々から強く批判されました。「ソヴァージュ(野生の、未開の)」という言葉自体が、先住民を「不潔で文化のない人々」と呼ぶのに使われてきたからです。ディオールは数時間で映像を取り下げました。売れれば売れるほど「どこにでもある」「無難すぎる」という声も増え、ソヴァージュは今も好き嫌いがはっきり分かれる香水です。
まとめ
- 賛否が割れる理由は「テーマが挑発的」「香りが極端」「売れすぎ」の3つに分けられる
- セクレシオン・マニフィーク(2006年)は、体液をテーマにわざと好き嫌いを狙った香水
- オピウム(1977年)は名前への抗議が報道され、かえってベストセラーになった
- エンジェル(1992年)は最初のモダン・グルマンとされ、強烈な甘さで評価が割れる
- サンタル33・バカラ ルージュ 540・ソヴァージュは、売れすぎたことで反発も生んだ
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出典(12)
- Wikipedia(英語版)「État libre d'Orange」
- TANK Magazine「antoine lie(issue 100 talks)」
- Now Smell This「Etat Libre d'Orange Secretions Magnifiques fragrance review(2011年6月)」
- Wikipedia(英語版)「Opium (perfume)」
- Wikipedia(英語版)「Angel (perfume)」
- Nasomatto 公式「Black Afgano(製品ページ)」
- Luckyscent「Alessandro Gualtieri(調香師紹介)」
- Bois de Jasmin「Tom Ford Black Orchid(2006年11月)」
- Wikipedia(英語版)「Santal 33」
- Wikipedia(英語版)「Le Labo」
- Wikipedia(英語版)「Baccarat Rouge 540」
- Wikipedia(英語版)「Sauvage (fragrance)」










