「同じ香水なのに人によって匂いが違う」は本当?肌質・体温と香りの科学
友だちがつけていて好きになった香水を、自分の肌にのせたら印象が違った。そんな経験はありませんか。「香水は肌の上で変わる」とよくいわれますが、実はその理由は肌の側と嗅ぐ人の鼻の側の両方にあります。研究でわかってきたことと、まだはっきりしないことを分けて見ていきます。
2026.10.23 · 6分で読めます

香水の匂いが人によって違うのは本当?違いは「肌」と「鼻」の二か所で起きる
香水が「人によって違う」と感じられるとき、そこでは大きく二つのことが起きています。ひとつは、肌の上で香りの分子が蒸発していく速さや順番が人によって少しずつ違うこと。もうひとつは、その香りを受け取る鼻(嗅覚受容体)が、人によって違うことです。
前者は「つけた人によって香りが変わる」話、後者は「同じ香りでも嗅ぐ人によって感じ方が変わる」話です。ふだんは一緒くたに語られがちですが、分けて考えると、香水選びで何に気をつければいいかが見えてきます。
先に正直にお伝えしておくと、肌質と香りの関係を実際に測った研究は、まだそれほど多くありません。ネットで見かける「脂性肌のほうが長持ちする」といった説明も、しっかりした測定で確かめられているとは限らないのです。
乾燥肌と脂性肌、香水が長持ちするのはどっち?研究で効いていたのは「皮脂」より「うるおい」
2025年に *International Journal of Cosmetic Science* に載った研究では、10人のボランティアの前腕に、揮発のしやすさが異なる8種類の香料分子を混ぜたものをつけ、蒸発していく量を測りました。比べる相手は、香りと反応しないガラスの表面です。
結果、多くの分子はガラスより肌の上のほうが蒸発しにくい、つまり肌にとどまりやすいことがわかりました。一方で、柑橘の香りの成分リモネンや、ハーブのような香りのミルセンといった軽い分子は、逆に肌の上のほうがわずかに多く蒸発していました。肌は、香りの分子を一律に引き止めるわけではないのです。
そして、肌のどんな性質が蒸発に関わっていたかを調べると、いちばん影響が大きかったのは肌の水分量(うるおい)でした。次いで肌表面の凹凸(きめ)、そして肌から逃げていく水分の量(経皮水分蒸散量)が続きます。意外なことに、皮脂の量の影響はいちばん小さいという結果でした。
この研究で調べた肌の性質と、蒸発への影響
| 肌の性質 | 影響の大きさ | ひとこと |
|---|---|---|
| 水分量(うるおい) | いちばん大きい | 揮発しにくく油になじむ分子の蒸発に関わる |
| 表面の凹凸(きめ) | 大きい | 軽い分子は、凹凸が大きいほど蒸発が増えた |
| 経皮水分蒸散量 | やや大きい | 水分量と同じく、重めの分子に関わる |
| pH・皮膚温 | 小さい | 前腕だけで測っている |
| 皮脂 | いちばん小さい | 「脂性肌は長持ち」はこの研究では確かめられず |
ただし、この研究は10人と小さく、参加者は乾燥ぎみの肌の人が多く、測ったのは前腕だけです。研究者自身も、一般化するにはもっと大きな集団での研究が必要だと書いています。「乾燥肌の人は香りが飛びやすい」と言い切ることはできませんが、無香料の保湿をしてからつけるという昔ながらの工夫は、方向としては理にかなっていそうです。
体温が高い人はトップノートが早く消える?温度と揮発スピードの関係
物質が蒸発しようとする力の強さは蒸気圧で表され、ふつう温度が上がるほど大きくなります。香水の分子も同じで、あたたかい場所ほど速く空気中へ出ていきます。シトラスのようなトップノートは、もともと蒸気圧が高い軽い分子が中心なので、体温や気温が高いと、より早く立ちのぼって早く消えていきます。
上の研究でも、軽くて沸点の低い分子ほど蒸発しやすく、重くて分子どうしの引き合いが強い分子ほど肌に残りやすいという、分子そのものの性質がはっきり表れていました。アルコールの仲間(たとえばバラのような香りのシトロネロール)は、エステルの仲間より肌にとどまりやすかったそうです。肌のケラチンや脂質と、より強く引き合うためと考えられています。
一方で、この研究では皮膚温の影響は小さめでした。ただ、測ったのは前腕だけで、人によって温度の差もそれほど大きくありません。首すじや胸元のように体温が高い場所と、手首や足首とで香り方が違うのは、つける場所によって温度が違うことも関係していると考えられます。つける場所の選び方は香水の付け方ガイドにまとめています。
皮膚常在菌と体臭は香水に混ざる?「その人の匂い」と重なって届くしくみ
香水をつけた肌からは、香水の香りだけが出ているわけではありません。体の匂いのもとは、汗そのものよりも、皮膚にすむ細菌が汗腺の分泌物を分解してできる物質だと考えられています。生まれたときから働くエクリン汗腺の汗はほとんど匂わず、思春期から働き出すアポクリン汗腺の分泌物が、主な匂いのもとになります。
体の匂いの強さには遺伝子も関わっています。*ABCC11* という遺伝子の型によって匂いの強さが変わり、東アジアの人の80〜95%は、体の匂いが弱くなる型を持っているとされます。日本人を調べた研究では、69%がその型をふたつそろえて持っていました。
香水の香りは、こうした「その人の匂い」と重なった全体として周りに届きます。ただし、皮膚の細菌が香料そのものをどう変えるのか、香水と体臭がどう混ざって感じられるのかを直接調べた研究は、まだ少ないのが現状です。「肌の上で香りが化学変化する」という説明はよく見かけますが、確かな話として語れるのは、ここまでといえます。
ムスク・アンブロキサン・Iso E Super が人によって違って感じる理由 鼻の遺伝子の個人差
香りの違いがもっともはっきり出るのは、実は肌ではなく鼻の側かもしれません。人間の嗅覚受容体の遺伝子はとても数が多く、人によって少しずつ違っています。2007年に *Nature* に載った研究では、汗のような匂いの成分アンドロステノンを感じ取る受容体 OR7D4 の型によって、その匂いを強く不快に感じる人と、あまり気にならない人がいることが示されました。
ムスクでも同じことが起きます。2022年の研究では、1,000人を調べて、合成ムスクのガラクソリドの感じ方に OR4D6 という受容体の型が強く関わっていることがわかりました。この型をふたつそろえて持つ人は、ガラクソリドを嗅ぎ取れないといいます。しかもムスクの場合、ある種類のムスクだけが嗅げず、ほかのムスクは嗅げるという人もいます。ムスクについてはムスクの話でも詳しく紹介しています。
肌に近いところでほのかに香る、いわゆる「スキンセント」の香水が、人によって「無臭に近い」「すごくいい匂い」と真っ二つに分かれやすいのは、こうした嗅覚の個人差が関わっていると考えられます。イソ E スーパーだけでできたモレキュール 01 について、ブランドは「まわりの人はみんな気づくのに、つけている本人は嗅ぎ取れない」「数時間ごとにまた香りが戻ってくる」と説明しています。分子の性質に加えて、次の記事で紹介する鼻慣れも関係していそうです。
人によって感じ方が分かれやすいスキンセント
モレキュール 02 はアンブロキサンだけでできた香水、アナザー 13 もアンブロキサンが軸です。アンブロキサンはクラリセージに含まれるスクラレオールからつくられる合成香料で、ウッディでムスクのような、ほんのり塩気のある香りが肌や布に長く残ります。気になる香りは、ほかの人の評判よりも、まず自分の肌と鼻で確かめるのがいちばんです。
まとめ
- 香りの違いは「肌の上の蒸発」と「嗅ぐ人の鼻」の二か所で生まれる
- 小さな研究では、蒸発に効いていたのは皮脂より肌の水分量ときめ
- 温度が高いほど揮発は速い。軽いトップノートほど影響を受けやすい
- ムスクなどは嗅覚受容体の遺伝子の違いで、嗅げる・嗅げないが分かれる
この記事に出てくる
香りを試す
出典(9)
- Hadjiefstathiou ほか / PMC「Exploring the impact of fragrance molecular and skin properties on the evaporation profile of fragrances(International Journal of Cosmetic Science, 2025)」
- Wikipedia(英語版)「Vapor pressure」
- Wikipedia(英語版)「Body odor」
- Wikipedia(英語版)「OR7D4」
- Li ほか / PMC「From musk to body odor: Decoding olfaction through genetic variation(PLOS Genetics, 2022)」
- Wikipedia(英語版)「Galaxolide」
- Wikipedia(英語版)「Ambroxide」
- Wikipedia(英語版)「Iso E Super」
- Escentric Molecules(ブランド公式)「What makes Iso E Super so super?」




