広告費ゼロ・完全ブラインド審査の頂点「アート&オルファクション・アワード」:年別の受賞香水と天才調香師
香水の賞には、どうしても「有名ブランドが強い」という印象がつきまといます。そこで、ブランド名もボトルも値段も伏せ、番号だけの小瓶で香りを比べる賞が生まれました。ロサンゼルス発のアート&オルファクション・アワードです。香水好きの評論家ルカ・トゥリンが「世界でただひとつ、飾り気のない香水コンテスト」と呼んだこの賞のしくみと、歴代の受賞作を紹介します。
2026.10.24 · 9分で読めます

アート&オルファクション・アワードとは?ロサンゼルスの小さな研究所から
賞を運営しているのは、ロサンゼルスの非営利団体インスティテュート・フォー・アート・アンド・オルファクション(香りを芸術として研究・発信する団体。以下 IAO)です。公式サイトによると、2012年9月に設立され、2013年2月に一般公開されました。創設者で代表はサスキア・ウィルソン=ブラウンです。
英語版ウィキペディアによると、賞は2013年に IAO の企画として生まれ、調香師ブルーノ・ファザロリの提案がきっかけでした。第1回の授賞式は2014年4月、ロサンゼルスのゲーテ・インスティトゥートで開かれています。トロフィーは「ゴールデン・ペア(金色の洋梨)」と呼ばれます。
授賞式の開催地
2014〜2015
ロサンゼルス(ゲーテ・インスティトゥート)
2016
ロサンゼルス(ハマー美術館)
2017
ベルリン(ロサンゼルス以外での初開催)
2018
ロンドン
2019
アムステルダム(旧教会)
2020
オンライン(2021年は開催なし)
2022
マイアミ(世界調香会議にあわせて開催)
2023
ロサンゼルス
2024
リスボン
2025
ロサンゼルス
2026
アテネ
なぜ信頼される?大手資本の禁止と、番号だけの完全ブラインド審査
応募できるのは「独立した」ブランドだけ
応募規定には、香水をつくる会社は「個人や同族などが持つ非上場の会社であるか、ファインフレグランス(肌につける高級香水)のブランドを5つ以下しか持たない非上場の会社の傘下であること」と書かれています。巨大な化粧品グループに属するブランドは応募できません。つまり、テレビ広告や大きな売り場を持つブランドとは、最初から土俵を分けているのです。
番号と短い説明文だけで嗅ぐ
審査の説明ページによると、応募作は番号で管理され、添えられるのは名前を伏せた短い説明文(香りのテーマを書いたもの)だけです。ブランド名、香水の名前、調香師、国などは審査員に知らされません。2014年の創設者インタビューでは、ラベルを「I-007」「A-056」のような記号に貼り替え、説明文の名前はペンで黒く塗りつぶしたと語られています。2026年に受賞したブランド、プルミエール・ポーは「ブランド名も、ボトルも、値段も、プレスキットもない」と書いています。
審査は約5か月、3段階で進みます。予選では審査員1人が最大150本を嗅ぎ、1本につき3人以上が点をつけて上位50本にしぼります。準決勝では別の審査員が最終候補10本と次点5本を選び、決勝で各部門の受賞2本が決まります。審査員は倫理規定への署名も求められます。
創設者は2014年のインタビューで、ブラインド審査なら「宣伝費のない工房の香水」も大きめのブランドの香水と同じ重さで評価できると話しています。2017年の業界紙 WWD の記事でも「宣伝費にかかわらず、作品として敬意をもって扱う」と語っています。
この賞が信頼される3つの理由
- 大手の化粧品グループに属するブランドは応募できない
- 審査員はブランド名・香水名・調香師・ボトル・値段を知らない
- 1本を3人以上が嗅いで点をつけ、3段階でしぼり込む
4つの部門:インディペンデント、アルチザン、サダキチ賞、セプティマス・ピース賞
主な部門(定義は応募規定の文言をもとに要約)
サダキチ賞の名前は、香りのコンサートを試みた批評家サダキチ・ハートマンから、セプティマス・ピース賞は香りを音階にたとえた19世紀英国の香料商セプティマス・ピースからとられています。2017年のサダキチ賞は作品「オスモドラマ/スメラー 2.0」に贈られ、調香師ゲザ・ショーン(香水ブランド「エセントリック・モレキュールズ」の創設者)が共同受賞者に名を連ねました。
ほかに、手づくりの香水をたたえる「アフテル賞」が2018〜2024年にありました。2025年からは一般投票の「ピープルズ・チョイス」も始まっています。
年別の受賞作と調香師(2014〜2026年)
IAO の公式ページに載っている受賞作です。各部門2本ずつ選ばれます。カッコ内は調香師です。
インディペンデント部門(外部の調香師に頼んだ香水)とアルチザン部門(主任調香師が自分で組んだ香水)の受賞作
表の受賞作(このサイトのページ)
イタリアの調香師ルカ・マッフェイは、2015年・2016年・2023年・2024年と4回、インディペンデント部門の受賞作を手がけています。外部の調香師として、名前を伏せた審査で何度も選ばれているのは、処方の力そのものが評価されている証拠です。
香水好きなら知っておきたい受賞ブランド
ズーロジスト(カナダ)は、動物をテーマにした香水のブランドです。2016年に「バット(コウモリ)」でインディペンデント部門(外部の調香師に頼んだ香水の部門)を受賞しました。2020年には「スクイッド(イカ)」が最終候補に残り、同じ年に米国の FiFi 賞でパフューム・エクストラオーディネール部門(香りそのものをたたえる部門)を受賞しています。
ズーロジストの香水(「バット」は2020年版)
ハイラム グリーンは、調香師本人が処方を組むブランドで、2019年に「ハイド」でアルチザン部門(主任調香師が自分で組んだ香水の部門)を受賞しました。第1回の2014年には、フランスの調香師ベルトラン・ドゥシュフールが手がけた「アショカ」がインディペンデント部門(外部の調香師に頼んだ香水の部門)で選ばれています。
受賞は逃しても:最終候補と審査員に並ぶ実力派
各年の最終候補一覧には、香水好きならよく知る調香師の名前が並びます。タイ出身のプリン・ロムロスは2017年・2018年・2024年に、フランスのアントワーヌ・リーは2017年と2024年に、ドイツのラルフ・シュヴィーガーは第1回の2014年に最終候補に残っています。受賞2本に入れなくても、名前を伏せた予選と準決勝を勝ち抜いたこと自体が、処方の質の高さを示しています。
審査する側にも有名な調香師がいます。スイスの調香師アンディ・タウアー(「ラール デュ デゼール マロカン」で知られる)は、2017〜2019年に審査員を務めました。
最終候補や審査員の調香師に近い香水
インディー香水ブームとこの賞:初心者がニッチ香水で失敗しない試し方
IAO は自分たちの賞を「新しい世代の独立系調香師を刺激してきた」と説明しています。宣伝費のない小さな工房でも、香りの出来だけで国際的な賞を取れる。そのことを10年以上示し続けてきたのが、この賞のいちばんの功績です。
ただ、受賞作の多くは日本の店頭では試せません。そこで役に立つのがデカント(大きなボトルから小さな容器に取り分けた、お試しサイズの香水)です。いきなりフルボトルを買わずに、まず少量で試してみましょう。
ニッチ香水を失敗せずに試す4つのステップ
- まずは 1〜3mL のサンプルやデカント(小分けしたお試しサイズ)を買う
- ムエット(試香紙:香りを試すための細い紙)ではなく、手首など自分の肌につけて半日ようすを見る
- 最初の香りだけで決めない。2〜3時間後の「ラストノート(最後まで残る香り)」が好きかどうかで選ぶ
- 気に入ったら、同じ調香師やブランドの別の作品も試す
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出典(17)
- The Institute for Art and Olfaction「About」
- The Institute for Art and Olfaction「The Art and Olfaction Awards(歴代の受賞と開催地)」
- Wikipedia(英語版)「The Art and Olfaction Awards」
- Wikipedia(英語版)「Sadakichi Hartmann」
- Wikipedia(英語版)「Septimus Piesse」
- The Art and Olfaction Awards「Categories and Rules」
- The Art and Olfaction Awards「How We Judge」
- The Art and Olfaction Awards「FAQ」
- CaFleureBon「Inside the Institute for Art and Olfaction Awards: an interview with Saskia Wilson-Brown(2014年)」
- The Institute for Art and Olfaction(WWD の転載 PDF)「WWD 掲載記事(2017年、ベルリン開催について)」
- The Art and Olfaction Awards(Internet Archive)「2018 Finalists Press Release(審査員の一覧を含む)」
- The Institute for Art and Olfaction「2024 Finalists Release」
- The Institute for Art and Olfaction「2025 Finalists」
- Zoologist Perfumes「Zoologist Perfumes Wins in the Art and Olfaction Awards 2016」
- Zoologist Perfumes「Both Zoologist Bee and Squid got into the Art and Olfaction Awards 2020 finalist」
- The Fragrance Foundation「Awards Archive 2020(米国フレグランス・ファウンデーション・アワード 2020年の受賞一覧)」
- Première Peau「Nuit Élastique wins Art and Olfaction Awards 2026」














