なぜ日本では香水が不人気だったのか?「無臭の美学・和食・湿度」と、いま急速に広がる理由
「日本人は香水をあまりつけない」とよく言われます。実際、日本の香水市場はかつて「香水砂漠」とまで呼ばれていました。ところが今、香水の専門店が増え、若い人を中心に香水を楽しむ人が増えています。なぜ日本では香水が広まりにくかったのか、そして何が変わったのかを見ていきます。
2026.10.23 · 4分で読めます

日本で香水が広まりにくかった5つの理由
1. 「無臭がいちばん」という感覚
日本語版 Wikipedia の「香水」の項では、日本で香水が欧米ほど一般的でない理由として、食生活や入浴の習慣などから、においに敏感で無臭が好まれることが挙げられています。毎日お風呂に入り、清潔であることが何よりの身だしなみ。そう考える人にとって、香りを足すことは必ずしも必要ではありませんでした。
2. 体臭が少ない人が多い体質
体質の違いも関係しているという説があります。ABCC11 という遺伝子の型によって、耳あかが乾いているか湿っているか、わきの汗のにおいが強いか弱いかが決まります。乾いた耳あかとにおいの弱い汗になる型は東アジアに多く、日本人にも多く見られます(ただし韓国や中国北部の人のほうが、さらに割合が高いとされます)。この型によって制汗剤を使うかどうかも変わるという研究があります。体臭を隠すために香水が必要、という場面が、欧米より少なかったのかもしれません(推測)。
3. 香りを「聞く」香道の文化
日本には、香木をたいてその香りを味わう香道があります。香道では香りを「かぐ」ではなく「聞く」と言い、香りに静かに耳をすませるように向き合います(日本の香りの歴史)。平安時代の貴族は衣に香をたきしめましたが、それは強く主張するためというより、ほのかに漂わせるためのものでした。強く香る香水とは、香りとの付き合い方が違ったのです。
4. 和食とにおいへの気づかい
だしの香りや旬の食材の繊細な香りを楽しむ和食の席では、強い香水は嫌がられやすいと言われます。料理の香りを大切にする食文化も、香水を控えめにする理由のひとつと考えられます(推測)。
5. 「スメハラ」と高温多湿
スメルハラスメント(スメハラ)は、においで周りを不快にさせることを指す日本でつくられた言葉です。主な原因は体臭や口臭ですが、香水や柔軟剤のような「いい香り」も、感じ方の違いから苦情の原因になることがあります。周りへの気づかいを重んじる職場では、香水を避ける人も多いでしょう。
さらに、夏の日本は高温多湿です。乾いた気候のヨーロッパでつくられた重い香水は、湿気の多い日本の夏には強く感じやすい、とよく言われます。ただ、湿度と香りの感じ方の関係について、はっきりした研究は今回見つけられませんでした(推測)。
なぜ今、日本で香水が広がっているのか
香水専門店ノーズショップの代表・中森友喜さんは、WWDJAPAN の記事で、2017年に店を始めたころの日本は「香水砂漠」と呼ばれていたと振り返っています。それが今では全国10店舗に広がり、10万円を超える複雑な香水も売れるようになったといいます。
コロナ禍とマスク:「自分のための香り」へ
同じ記事では、マスク生活のなかで「周りの鼻を気にしなくてよくなった」ことで、ウードやスモーキーなレザーのような個性的な香りへの関心が高まったと指摘されています。調香師の大沢さとりさんも、雑誌のインタビューで、コロナ禍を経て香りは「むしろ自分のために必要という考え方に変わった」と語っています。香水が「人にアピールするためのもの」から「自分の気分のためのもの」へと変わってきたのです。
肌になじむ香り・お茶・石けん
肌になじむ香り・お茶の香り
小分けで試せる仕組み
高い香水をいきなりフルボトルで買うのは勇気がいります。そこで広がったのが、香水を小分けにして届ける定期便です。たとえば「カラリア(COLORIA)」は、約1,000種類の中から選んだ香りを、毎月4mLのアトマイザー(持ち歩き用の小さなスプレー容器)で届けるサービスです(2022年の記事より)。いろいろな香りを少しずつ試せることで、香水を始める人が増えました。
専門店と日本のブランド
ノーズショップのようなニッチ香水(小さなブランドが少量でつくる個性的な香水)の専門店や、CANOMA、EDIT(h) などの日本のブランド、そして香水を紹介するメディアが、一緒に市場を育ててきたと中森さんは述べています。一方で、韓国や中国の香水市場は急速に伸びていて、韓国の市場規模はすでに日本を上回っている可能性があるとも語っています。
香水を楽しむ人が増えた今、大切なのは周りへの思いやりです。香りの好みは人それぞれで、香りが苦手な人もいます。最初は1〜2プッシュから、手首やひざの裏など体温の低いところに少しつけてみてください(香水のつけ方)。
まとめ
- 日本では食生活や入浴の習慣から「無臭」が好まれ、香水が広まりにくかった
- ABCC11 遺伝子の型により、日本人にはわきのにおいが弱い人が多いとされる
- 香りを静かに「聞く」香道の文化や、スメハラへの気づかいも背景にある
- マスク生活を経て「自分のための香り」が広がり、専門店や小分けの定期便が後押しした










