本文へスキップ
ohmyperfume

Column · 香りの産地

夜に咲くジャスミン マドゥライの花市場とサンバック

香水のジャスミンには、大きく2つの顔があります。南フランスのグラースで知られるグランディフロラムと、インドやアジアで愛されるサンバック。ここでは、夕方に開いて夜通し香るサンバックと、その花が毎朝集まる南インドの町マドゥライを訪ねます。

2026.10.22 · 4分で読めます

夜に開く白い花

ジャスミン・サンバック(Jasminum sambac)は、高さ0.5〜3mほどの低木またはつる性の植物で、ブータンやインドが原産とされます。英語ではアラビアン・ジャスミン、インドではモグラ(mogra)やモティヤ(motiya)、タミル語圏ではマッリ(malli)とも呼ばれます。

サンバックには、いくつかの品種があります。一重の花びらを5枚以上つける「メイド・オブ・オルレアン」は、サンパギータやピーカケと呼ばれるのはたいていこの品種で、インドではモグラ、モティヤ、ベラとも呼ばれます。花びらが八重になる「グランド・デューク・オブ・タスカニー」は小さな白いバラのような姿ですが、香りはほかの品種より控えめです。

花は一年じゅう咲き、枝先に3〜12輪ずつ房になってつきます。直径2〜3cmほどの白い花が開くのは、たいてい夕方の6時から8時ごろ。そして翌朝には閉じてしまいます。香るのは12〜20時間ほどの短いあいだ。夜の庭でふと甘い香りがするのは、この性質のためです。

ジャスミンという言葉は、ペルシア語の yāsaman(ヤースマン)から古いフランス語を経て広まりました。モクセイ科のソケイ属には約200種があり、香水に使われるのはそのうちのごく一部です。

マドゥライの朝の花市場

南インド、タミル・ナードゥ州の古都マドゥライは、ジャスミンの町として知られています。古くからの呼び名のひとつは「マッリガイ・マーナガル」。この地方のジャスミンはマドゥライ・マッリと呼ばれ、主にコダイカナルの丘陵のふもとで栽培されています。

摘まれた花が集まるのは、マドゥライの朝の花市場です。ここには平均して毎日2,000人ほどの農家が花を売りに来るといわれます。サンバックはつぼみのうちに、早朝に摘み取ります。つぼみは大きさや固さが天気によって変わるため、選ぶ目安は色。緑がかったつぼみは香りが出ないことがあるので、白くなったものを選ぶのがコツです。

つぼみが香りになるまで

  1. 01摘む早朝、白くなったつぼみを選んで摘む
  2. 02運ぶ朝の花市場へ。花輪や香料の原料に
  3. 03開く夕方、つぼみが開いて香りはじめる
  4. 04閉じる翌朝には閉じる。香るのは12〜20時間

園芸品種もたくさんあります。一重で「サンパギータ」の名でも呼ばれる 'Maid of Orleans'、香りがとりわけ強いとされる 'Mysore Malli' など。インドの中でも、品種と土地の名前が結びついて語られるのが、この花の面白いところです。

南インドのジャスミンと白檀

マドゥライコダイカナルマイソールベンガルールアラビア海ベンガル湾
  • マドゥライ 朝の花市場。マドゥライ・マッリ
  • コダイカナル 丘陵のふもとでジャスミンを栽培
  • マイソール 白檀の町
略図・陸地: Natural Earth / 地点は目安です。

花輪と祈り

インドでは、ジャスミンは結婚式や宗教の儀式、祭りに欠かせない花です。寺院の入口や大通り、商店街では、花売りがジャスミンの花輪や、モグラ(モティヤ)の束を売っています。ヒンドゥー教では神聖な花とされ、花嫁は髪にモグラの花輪を飾ります。

サンバックは国境を越えて愛されてきました。フィリピンでは国花「サンパギータ」として、花輪にして聖像に捧げられます。インドネシアでは「メラティ・プティ」と呼ばれる国花のひとつで、ジャワの花嫁は髪をジャスミンの花輪で飾ります。タイでは仏さまへの供え物に、オマーンでは子どもの1歳の誕生日のお祝いに使われます。

ハワイでは、この花は「ピーカケ」と呼ばれ、香りのよいレイになります。ピーカケはハワイ語で「クジャク」のこと。カイウラニ王女が、この花とクジャクの両方を愛したことから名づけられたといいます。インドネシアのジャワでは、開ききる前のつぼみを糸に通して花輪(ロンチェン・メラティ)をつくり、花嫁の髪を網のように覆って飾ります。

そして中国では、茉莉花(モーリーホア)としてジャスミン茶の香りづけに使われてきました。中世のアラビア語の「ザンバク(zanbaq)」はジャスミンの油を指す言葉で、学名の sambac もここから来ています。香水のジャスミンを嗅いで、どこかお茶を思い出すとしたら、それはこの花の長い旅の記憶かもしれません。

香水の中のサンバック

インドネシアでは、ジャスミンの花やつぼみから水蒸気蒸留で精油が取られています。ジャスミンの精油は、アロマや香水の世界でもとびきり高価な素材のひとつです。

同じジャスミンでも、グランディフロラムとサンバックは別の種。香水の名前に「サンバック」とわざわざ書かれているのは、その違いを楽しんでほしいという作り手の合図でもあります。インドの香油の町カナウジでは、モグラは夏の「涼しい」アタールの代表です(カナウジのアタール)。グラースのジャスミンについては「グラースのジャスミン」で詳しく紹介しています。

まとめ

  • ジャスミン・サンバックは夕方に開き、翌朝に閉じる
  • 南インドのマドゥライは「マドゥライ・マッリ」で知られる
  • つぼみは早朝、白くなったものを選んで摘む
  • フィリピン・インドネシアの国花、中国ではジャスミン茶に
出典(4)
確認日 2026.10.22。年代や数字には諸説あるものもあります。