ベルガモットとカラブリア 紅茶とコロンを香らせる果実
紅茶のアールグレイを口にしたとき、ふわりと広がる香り。あれがベルガモットです。香水のトップノートでもおなじみのこの柑橘は、イタリア半島のつま先、カラブリアの海沿いで育っています。
2026.10.22 · 5分で読めます

食べるより、香る果実
ベルガモット(学名 Citrus bergamia)は、酸味の強い柑橘です。果肉をそのまま食べるより、果皮から取る香りのほうがずっと有名で、アールグレイやレディグレイの紅茶、トルコのお菓子ロクムなどの香りづけに使われています。
遺伝子の研究から、ベルガモットはレモン(それ自体がビターオレンジとシトロンの交雑種)とビターオレンジの交雑から生まれたと考えられています。大きさはオレンジほどで、熟し具合によってライムのような緑から黄色まで色が変わります。冬に花を咲かせる小さな木で、果汁はレモンほど酸っぱくないものの、グレープフルーツより苦いといわれます。
名前の由来は、イタリア北部の町ベルガモ。フランス語を経て英語の bergamot になりました。ちなみに、ハーブの「ベルガモット」(モナルダ)はシソ科のまったく別の植物で、香りが似ていることから同じ名で呼ばれています。
香水では、明るく、少し苦みがあり、花のような柔らかさもある香りとして、トップノートの定番になっています。ノートの一覧でベルガモットを見かけない香水を探すほうが難しいくらいです。
香りづけに使われるのは紅茶だけではありません。スウェーデンの無煙たばこ「スヌース」でも、ベルガモットは最もよく使われる香りのひとつです。精油を取ったあとの果皮は、かつて小さなみやげ物の箱や嗅ぎたばこ入れに加工されていました。果実の皮まで無駄にしない、産地らしい暮らしの知恵です。
レッジョ・カラブリアの海沿い
ベルガモットが大規模に育てられているのは、イタリア南部カラブリア州、レッジョ・カラブリア県のイオニア海沿いです。その規模は、ベルガモットが町全体のシンボルになっているほど。伝統的に育てられてきた品種はフェミネッロ、ファンタスティコ、カスタニャーロの3つです。
この土地の精油は「ベルガモット・ディ・レッジョ・カラブリア」として DOP(原産地名称保護)に認められています。品質を管理しているのは、レッジョ・カラブリアにある柑橘精油の研究機関です。産地の名前とともに品質が守られている、数少ない香料のひとつといえます。
取れる量はわずかで、ベルガモット100個から得られる精油は約3オンス(約85g)ほど。そのため、安価なローズウッドの精油や、ハーブのベルガモットミントで増量された偽物が出回ったこともありました。イタリア政府が検査や純度の証明書による厳しい管理を導入したのは、産地の評判を守るためです。
第二次世界大戦中、イタリアは連合国側へベルガモットを輸出できなくなりました。その間、ブラジルやメキシコから代わりの品が市場に出ましたが、中身はスイートライムなど別の柑橘から取ったものでした。ベルガモットは南フランスやコートジボワールでも精油用に育てられていますが、カラブリアの名はいまも特別です。
ベルガモットの産地
- レッジョ・カラブリア ベルガモットの中心地
オーデコロンの主役
ベルガモットの名前を香水史に刻んだのがオーデコロンです。18世紀のはじめ、ドイツのケルンでジャン=マリー・ファリーナがつくった元祖オーデコロンでは、ベルガモットが主要な材料でした。軽やかで清潔感のある香りは、いまも「コロン」と名のつく香水に受け継がれています(蒸留器が香りを変えた)。
ベルガモット油が香水の香料として使われた最初の記録は1714年のもので、ケルンのファリーナ文書館に残っています。ベルガモットとオーデコロンの縁は、それほど古く深いのです。
果皮から精油へ
- 01収穫する果実を摘み取る
- 02圧搾する果皮を押しつぶして香りを取り出す(エクスプレッション)
- 03分ける果汁や水分から精油を分けて集める
柑橘の香料は、多くが熱を加えない圧搾(エクスプレッション)でつくられます。ブリタニカ百科事典も、柑橘の果皮から精油を取る方法として圧搾を挙げています。熱で香りが変わりやすい繊細な成分を、そのまま閉じ込めるための方法です。
ベルガモットの搾り方にも歴史があります。昔ながらの方法はスフマトゥーラと呼ばれる手作業で、果皮をゆっくり折り曲げて油を絞り出していました。1840年代には、ニコラ・バリッラがマッキナ・カラブレーゼ(カラブリアの機械)を発明します。大きさのそろった実を2つの金属のカップではさみ、下のカップのとげで実を固定して、刃のついた上のカップを回すと、油と水が飛び出してスズ引きの銅の鉢にたまる仕組みでした。いまは「ピーラー」と呼ばれる機械が流水の下で果皮の表面を削り、その乳液を遠心分離機にかけて、精油と水を分けています。
日差しには少し注意
ベルガモットの精油には、ベルガプテンなどの成分が含まれています。肌につけたあと紫外線を浴びると赤みが出る「光毒性」があることが、いくつかの試験で確かめられています。そのため香水業界では使い方に基準が設けられ、光毒性の成分を取り除いた精油も使われています。
市販の香水は基準に沿ってつくられていますが、精油を直接肌につけるのは避け、日中に肌へ香水をつけるときは、日差しの強い場所を少し気にしておくと安心です。
ベルガモットを名前に掲げる香水
まとめ
- ベルガモットはアールグレイやオーデコロンの香りの正体
- 主産地はイタリア、レッジョ・カラブリア県のイオニア海沿い
- 伝統品種はフェミネッロ・ファンタスティコ・カスタニャーロ
- 精油は DOP。ベルガプテンによる光毒性に注意
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